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長井短「優しさ告げ口委員会」:ホッカイロくれる人

演劇モデル、長井短さんが日常で出会った優しい人について綴る連載エッセイ。記念すべき第1回。

Text&Illustration: Mijika Nagai

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ホッカイロくれる人

「優しさ告げ口委員会」は、長井短が出会った「なぜそんなことができるの……」とため息すら出る優しさを持った人間を告発するよ。

映像作品の季節は縦横無尽で、今が冬でも物語が夏ならどれだけ寒くても半袖を着る。人間だから普通に寒い。そんな時、私たちを支えてくれるのは衣装さんだ。

その現場の衣装さんは四分袖さんという女性で、なんでこんな名前で呼ぶかっていうと、四分袖さんは寒さへのせめてもの抵抗として半袖衣装の中に四分袖シャツを紛れ込ませてくれるから。

「ちょっとでもあった方が良いのが袖」って私にそっと耳打ちしながら衣装合わせに臨む四分袖さんに秒で心を掴まれた。正直に言うと、冬は半袖だろうが四部袖だろうが寒い。

そんなことはきっと四部袖さんもわかっていて、それでも四部袖を紛れ込ませてくれるのは「私はあなたが寒いことわかってるから安心してね」ってメッセージだ。

長井短 優しさ告げ口委員会 ホッカイロくれる人

思いやりはこれで終わらない。特別に寒い早朝のロケ。凍えながらのリハーサルを終えて四部袖の手渡してくれたダウンを着る。悴んだ手を少しでも温めようとポッケの中に手を入れると、そこにコタツがあった。驚いて中を確認すると、ポッケの中にホッカイロがくっついている。しかも2枚。体側と外側に1枚ずつくっ付いている。

これは発明だ。ポッケの中にホッカイロが入っているだけでも十分嬉しいのだけど、そのホッカイロを手で握りしめるとどうしても手の甲は冷たいままなのだ。しかし、四部袖さんのこの方法はどうだろう。握らなくても、ただポッケに手を突っ込んでいるだけで両面きっちり温まる。

なぜ、ホッカイロが入ってるだけでは手が温まりきらないことを知っているんだろう。それはたぶん、四部袖さんが実験をしてくれたからだ。

私たちの寒さを想像してくれるだけで十分なのに、より強固な優しさのためにわざわざホッカイロポッケを研究してくれたのだ。これじゃ手の甲が冷たいなとか、これじゃ位置が悪いなとか、小さな違いをその都度確認してたどり着いたのがこのコタツポッケ……尊すぎる。

想像通りの優しさも嬉しいけれど、実験の果てにある想像以上の優しさは、爆発みたいに私を包む。それは心が温まるにとどまらなくて、もう少し世界を好きになろうかなって勇気になる。私も勇気を生める発明家を目指すね四部袖さん。

左から齋藤精一、服部滋樹。柴田文江、倉本 仁

未完成なものから可能性を見出す。大阪・関西万博から生まれる“共創”のデザイン

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