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手は口ほどに #7:水に見立てた手でボードを撫でる、シェイパー

働く手は、その人の仕事ぶりと生きてきた人生を、雄弁に物語る。達人、途上にある人、歩み始めた若者。いろいろな道を行く人たちの声にゆっくりと耳を傾けるポートレート&インタビュー連載。

photo: Masanori Akao / edit&text: Teruhiro Yamamoto

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多くのシェイパーは、1本のボードを1時間ぐらいでシェイプし終える。そこを関澤さんは、6時間くらいかける。「一日でシェイプを終わらせない。3〜4時間シェイプして、目が疲れて細かいものを見られなくなったら翌日までボードを置いてみる。

いいと思っていても、次の日に触るとボードにボコッと段がある。それで、また3時間ぐらいシェイプする。効率は悪いですね」と笑う。

ほんとうは、少しくらいボードにデコボコがあっても、波にもデコボコがあるから、乗っているサーファーにはわからない。「それよりも、ボードに沿って水がちゃんと流れるかどうかがすごく重要」。それを確かめるために、ボードの表面を愛でるように何度も何度も触る。

「自分の手を水だと思って、こうして流したときに、ボコッとなったら、乗ったときにもボコッとなる」。ボードのどこを水が抜けていくかを探るのは、手じゃないと、目では分からない。

関澤さんは30歳から35歳までの5年間、サーフボードの有名ブランド「ブルーワー」で働いていた。「最後の仕上げをやるサンディングマンとして、でっかい機械で余分な樹脂を削り飛ばしていた」。

毎日5本くらい仕上げるが、作業は完全に分業制。最初に削り出すシェイパー、エアブラシでピンラインなどを引くブラシマン、樹脂を巻き付けるラミネートマン、コーティングをするホットコートマン、仕上げをするサンディングマン、そしてボードを光らせる場合はバフマンも加え6人がかり。「いちばん多いときで、年間1000本以上。僕が在籍したころには減ってきて、それでも年間500~600本。

ただ、それだけ作ってもディーラーに納めるだけなので、ボードの調子が良かったのか悪かったのか、わからない」。

いまは、ボードづくりの工程すべてを一人で行う。作れたとしても、年間40本くらい。ボードの発注を受けたら、「まずは一緒に海に入ります。その人が波に乗るのを見て、もっとスピードを出したいなら、フィッシュテールのボードがいいですよとか」。

まるで、クリニックのお医者様のようにも思える。「すごく時間がかかります。でも、それがやりたかった」。サーフ業界は、お客様に敬語も使わない上から目線の人が多い。それに違和感があった関澤さんは、「シェイパーだからといって、先生だとありがたがられたいわけではない。発泡スチロールを削っているただのおじさんなので」という。

30万円もするサーフボードを買ってもらうのに、売ったら終わりというのは流儀ではない。「丁寧に、イメージに合うもの作っていきたい」。

ひと回りも年上のお客様が、出来上がりのボードを見て、感動して泣いてしまったことがある。「ビンビン来て乗れないかもと言っていたけれど、海に一緒に行って、そのボードをおろすのに日本酒で撫で撫でしていたら、ビンビンしていたボードがトロンと柔らかい感じになった」。作るものには、念が入るから、気持ちよくシェイプするのを心掛ける。

丁寧にやっていると、そういったマジックが起こる。「その人を思って作ることは、絶対にやるようにしている。これでいいや、というのはない」。

ブランド名の〈モントーク〉を〈アキノブセキザワ〉に変えた。さらに、いまは「アキノブセキザワ・サーフ&クラフト」にしている。シェイプだけではなく、全部の工程を一人でやっているのを「クラフト」の言葉にこめた。

最近は、バルサウッドのボード作りを始めている。「まだ一本目なのですが、木をカンナで彫刻しているみたい。でも、ビンテージのようなボードにはしたくなくて」。試しに海で乗ってみたときに、他のボードとポンとぶつかってしまった。

持ち帰ってボードのへこんだところにウェットティッシュを置いてドライヤーをあてたら、木が生きているから真っすぐに戻った。「面倒な作業もニヤニヤしてやっています。便利になり過ぎると、格好悪いことも多い。面倒くさいのも、そんなに悪くはないです」。

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