使いやすさを超える引力が
器にも棚の景色にも必要だ
風通しのいい骨組みだけの棚と、出し入れ自在の長い板。成形した器を板に並べて乾かしたら、板ごと持って窯場へ移動する─というのが陶芸の現場の定番スタイルだ。
「僕が使う板の長さは90cmですが、焼き物の産地では、たわむほど長い板を肩にかついで器を運んでる職人さんも見かけますよね」
高い轆轤技術が支える端正な形と、つい手に取りたくなる優しい気配。モノクロームの器で人気の吉田直嗣さんは、富士山麓の地に工房を構えている。乾燥のための棚は自作。
その半分には制作中の器が置かれているが、奥の方には、「未完成な部分があって個展や店には出せないものの、気に入ってしまって諦めがつかず、どうにも捨てられない器」がざくざく積まれている。乾燥棚の脇には、奥行き浅めの棚。1600年前の碗など超稀少な骨董も並んでいるが、それにしてはラフな佇まいだ。
「形の揃ったものが整然と並ぶ光景に、あまり惹かれないんです。ピシッと整理されていて、いかにも出し入れしやすく使いやすい棚は、なんだか息苦しい」
積んだり並べ替えたりしているうちにこうなってしまった、くらいの景色が心地よい。器もしかり。
「使いたいと思う器であることは大切。ただ、不便だけど気に入っているというような、使いやすさを超える魅力を持つ器を作りたいとも、思い続けているんです」