Live

コラージュアーティスト・河村康輔の棚。「感覚を頼りに探した始まりのビジュアル本の棚」

一人として同じ顔がないように、同じ道を歩む人生がないように、棚もまた一様ではなく、千差万別の「私」を映し出す。並べられているものが、高価なものじゃなくたっていい。並べ方が整然としていなくったっていい。それよりも、何を見て、何を大切にしてきたか。私的空間の棚を前に、聞きました。

photo: Keisuke Fukamizu / text: Asuka Ochi / edit: Tami Okano

連載一覧へ

感覚を頼りに探した
始まりのビジュアル本の棚

2009年、30歳の時に友人と借りたタウンハウスの6畳間。仕事が軌道に乗り、忙しくなった10年近くを見守ってきたアトリエの本棚には、ビジュアルへの初期衝動がぎっしりと押し込められている。高校時代に好きで買っていた『スタジオ・ボイス』。そこに掲載された本棚の写真に小さく写っていた背を頼りに探した本。お金がなかった20歳前後の頃から集めてきた洋書……。優に数千冊は超えている。

「20代でコラージュを始めた当時、古本屋の“外の箱”を漁って買った数百円の本から、自分がずっと影響を受けてきた大切な一冊まで、ここにあるもののすべてが宝物ですね。これがなかったら、いまの自分は100%いないと思います」

分類は特になく、手当たり次第、入る隙間に入れ、置ける場所に置くスタイルだが、一冊一冊、棚から引き出せば本との出会いの記憶が蘇る。友人の家で見て以来、何年もかけて見つけた古本や、ヨーロッパまでアーティスト本人を探し訪ねて譲り受けた貴重なタブロイド。いまも地方や海外へ行くと必ず古本屋を巡り、欲しい本は「足で探している」という。

「お金さえ出せば超レアな本だって、だいたいどんなものでも手に入る時代じゃないですか。でも、高い本は買わないと決めているんです。買おうと思えば買えるのだけど、そこに抗うのが楽しいんですよね。価値がついて流通しているものほど簡単に見つかりますが、ガラスケースに入った段階からではなく、お店で雑多に扱われている“発見されていなかった本”を見つけ出したい。

子供の頃におもちゃを探していた感覚とあまり変わらないのかなと。どうやって本を選んでいるか、よく聞かれるんですが、本は背で大体わかるんです。探し続けた時間によって、直感が鍛えられたのかもしれません。いいなと思って無意識に買っていた本の作者と何年も経ってつながったり、結構な確率で一緒に仕事をさせてもらうことも多いのが面白くて」

カラフルな背を背景に、おもちゃやカードなど、イメージの破片たちが混沌とした秩序で折り重なる。その棚は、河村さんのコラージュそのもののようでもある。

「いまこの棚を見ても、結局こんなもんか、別にたいして面白くないじゃん、っていう本もたくさんあります。でも、嗅覚を頼りに少しずつ買い集めてきたものたちは、確実に自分のなかのどこかに蓄積されている。年とともに知識も情報量も増え、より洗練された本を手にするようになってはいますが、たぶんそれは、表層的な上辺なんですよね。

当時は考えていなかったけれど、いま必要としている“感覚的なもの”って絶対にあって、ここに座って昔買った本を見返していると、価値のないものに費やしてきた時間や、掘り続けてきた日々を思い出すんです。技術が先行して手先だけになってしまいがちな時、この棚は、まだ食べられなかった頃の初心を呼び戻してくれる。自分の原点です」

長年かけて集めた一冊一冊
混沌の棚に、「始まり」がある

コラージュアーティスト・河村康輔の自宅本棚
〈IKEA〉の黒い本棚に、古書店などで買った洋雑誌や作品集、リトルプレスなど、稀少なビジュアルブックが。おもちゃや小物は海外のマーケットで見つけたもの、もらったものも。右下は、雑誌『V/Search』など、本を集めるきっかけになった大切な本が並ぶコーナー。空山基、田名網敬一、大友克洋、HAMADARAKAの作品やカードも飾られている。

連載一覧へ