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写真家・石川直樹の棚。「地層のように重なる箱は自らの記憶の引き出し」

写真家や陶芸家など、プロフェッショナルたちの自宅やアトリエの棚には、それぞれの専門分野の真髄が見え隠れする。棚板の素材や寸法にも職種ならではの理由があり、棚に並ぶ多種多様な道具から、創作の軌跡が見えてくることもある。いつもは目を向けられることのない、働くプロの棚を紹介。

photo: Keisuke Fukamizu / text: Kousuke Ide / edit: Tami Okano

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地層のように重なる箱は
自らの記憶の引き出し

プリントとフィルムを置く倉庫として使っている仕事場。長い廊下の壁面に並べた棚には、大量の箱が積まれている。箱の側面に貼られたテープには「トカラ」「ブータン」「マナスル」「宮古島」などの文字。複製芸術たるアナログ写真においては、作品が手元から消えても、そのオリジナルとなるフィルムやプリントが残る。ましてや30年近くのキャリアの中で常に世界中を飛び回り、その撮影対象も実に幅広い石川直樹さんであれば、その量は膨大なものとなる。

「確かに、ここまで大量の中判フィルムと六つ切りプリントを保管している人はほかにあまりいないかもしれません。ただ僕自身は管理はぜんぜん得意じゃなくて、アシスタントが整理してくれました。地域別に分けて箱に入れ、中もインデックスを付けています」

同じ場所を断続的に何度も訪れて撮影しているから、重ねられた箱がそのまま地層のように時間の経過を表している。

「改めて過去のプリントを見返すと、忘れていたことをどんどん思い出す。いわば“記憶の引き出し”なんです。“こんなものが写っていたのか”という色々な気づきもあって、それは偶然を受け止められる写真の本質の一つ。もしここにあるものがすべて失われるとしたら、僕の人生の4分の3くらいの記憶を全部なくしてしまうようなものだと思いますね」

写真家・石川直樹の自宅の棚
写真家の石川直樹さんが10年ほど前から仕事場として使っている部屋の一角。プリントやフィルムを保管している棚は金属製のシステムシェルフ。

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