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壇蜜、清竜人、レキシのMY SUMMER TUNE

フェス、キャンプ、ビーチ、プール。もうすぐ夏がやってくる。素敵なサマーにつきものなのは、極上な音楽。壇蜜、清竜人、レキシの3人に、とっておきのサマーチューンについて教えてもらいました。

初出:BRUTUS No.826「Summer Time, Summer Music」(2016年6月15日発売)

text: Izumi Karashima / edit: Izumi Karashima, Miki Miyahara

壇蜜

制汗剤の香りの曲で妄想する暑気をのがれた場所での睦事

MY LITTLE LOVERの「Naked」。この曲は高校生の時にとある制汗剤のCMソングとして使用されていた。安易かもしれないが、私は夏といえば石鹼の香りが心地よいこの制汗剤を使用していたので「夏=制汗剤=Naked」という図式がすでに出来上がってしまう。

壇蜜がNaked(裸)という歌を選ぶのもなかなかどうして安易極まりないが、長年そう連想してきたので仕方ない。20年も前からこうなる宿命だったのか。「Naked」には海や太陽といった夏らしい歌詞もなく、曲調もアップテンポではない。しかし、暑気をのがれた木陰や陽の当たらない部屋では「大っぴらにしたら反感かうでしょ」という睦事が繰り広げられているかも……と期待してしまうような物語を想像するのだ。こもった場所でそんなことしたら汗をかくでしょうに、これ(制汗剤)を使いなさいな……という理由でCMソングに起用されたなら相当洒落がきいている。

人間裏では何をやっているか分かったものではない。私だって澄ました顔して綺麗事を並べる毎日だが、時々思う。「あなたとならばNaked ただ一つになりたい」と。

MY LITTLE LOVER『PRESENTS』
マイラバの「Naked」は1998年発売のアルバム『PRESENTS』に収録。後にシングル「DESTINY」のカップリング曲としても発売。作詞・作曲は小林武史。

清 竜人

ひとりっきりの夏。レイドバックが止まらない

初夏の朝まだき。

もしくは、残暑厳しい晩夏の東雲。私は、しばしば散策をする。目的地などなく、のべつ歩みを進める。路傍のツツジを摘み取り、いささか追懐に耽る。舌の痙攣を感じる。

そんな時、きまって頭の中に流れるのは、私が夏のテーマソングにしている THAMIIの「laid back」。

いつもの自動販売機でビール(ロング缶500㎖)を買い、炎天下のグラウンドへ。坊主頭のガキどもが、寝ぼけ眼でノックを受ける景色を眺めながら、名状しがたい優越感に浸る。

背番号6がファンブルをした瞬間に、私は現実に引き戻されるのだ。あの泥まみれの軟式球は、決して小惑星などではない。

そして、彼女は二度と帰って来ない。まあ、THAMIIがゆっくりと歌うように、レイドバックしていこうぜ。ひとりで過ごしていても、夏の日差しはかわらないのだから。

眩い太陽の光と、体にまとわりついた汗を感じながら、また寝床につく。

◯月×日。私は王貞治のようなホームランが打ちたいのかもしれない。

THAMII『Beach SoundⅡ』
THAMII『Beach SoundⅡ』 THAMII『Beach SoundⅡ』に収録されている「laid back」。フォークやソウルをルーツに、自主レーベルから作品を発表。夏はビーチでもライブを行う。

レキシ(池田貴史)

切なく、後ろめたい夏。福井の実家の風景が広がる曲

夏休み後半、宿題がまだ終わってない時期。夕方4時ぐらい。西日が部屋に入ってきて絨毯がちょっとモワッとして。宿題全然やってないなっていう罪悪感がありつつ、ちょっとザリガニ捕りに行ってこようかなと思ってる自分。そういうノスタルジックな情景がよぎるんです。スライ&ザ・ファミリー・ストーンの「ホット・ファン・イン・ザ・サマータイム」を聴くと。

僕の実家は福井の鯖江なんです。食べ物屋をやってるんですけど、家の前に出ると田んぼです。周囲は全部田んぼ。で、田んぼの用水路にザリガニを捕りに行くんですけど、子供の足でちょっと遠くに行かないといいのがいない。トボトボ歩いていいザリガニ探しに行くわけです。夏ってね、なんか切ないイメージなんです。もし自分が湘南の出身ならもっと開放的な風景を思い浮かべるのかもしれないんですけど、どうしても夏の陰になっちゃう。サザンやチューブが似合う夏の陽ではなく。親父は冷ややっこ食べながらプロ野球を観ていて、外ではカエルがゲコゲコ鳴いていて、なんか後ろめたさを抱えたままの僕。それが僕の夏なんです。

Sly & the Family Stone『Greatest Hits』
スライを聴くなら『グレイテスト・ヒッツ』(1970年)がおすすめ。「ホット・ファン・イン・ザ・サマータイム」ほか全盛期のヒット曲を網羅した一枚。