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MY PERFECT DAYS 〜10人が語る特別な日常〜 高橋ヨーコの場合

観る者に解釈を委ねる映画が好きだ。自らの人生を重ね合わせて妄想したり、物語の続きを考えたり……。ついに公開が始まったヴィム・ヴェンダース監督の『PERFECT DAYS』は、そのお手本のような映画。この作品を観た文化人10人に、「あなたにとってのPERFECT DAYとは?」を尋ねました。

text: BRUTUS

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実在する平山との邂逅。そして、一人だけの時間に突如やってくる最高な瞬間

第三回:高橋ヨーコ(写真家)

映画『パリ、テキサス』が大好きで、そもそも、ヴィム・ヴェンダースが撮った写真が好きだと語る写真家の高橋ヨーコさん。ヴェンダースの撮った写真集も持っていて、同じ景色を撮りたくて旅したこともあるという。美しい日常風景を写真集のように切り取るこの映画は、カンヌ国際映画祭にエントリーしたあたりから気にしていたという。

「まだ映画を観るずっと前に、渋谷区のトイレ『THE TOKYO TOILET』プロジェクトの写真集を作るお仕事をいただいたんです。そのときに、偶然、平山のモデルになった方に出会ったんですよ!」

そんなエピソードは他の人からなかなか聞けるものではない。偶然なのか宿命なのか。

「トイレを撮影しているときに、地面に膝をついて一生懸命掃除している清掃員の方がいて。もちろん、いろんなトイレを撮影していれば、掃除している人を見かけるんだけど、その人のユニフォームはとても使い込まれているし、腰に鍵をいっぱいぶら下げていて、他の人とは違うオーラのようなものを纏っていたんですよ。私たちがトイレ周りを下見していたら、その間も掃除せずに待っててくれて。『あ、終わったらで良いので』などと、すごく控えめな方でした。よくよく話を聞いたら、映画の役作りのために役所さんに清掃員の仕事内容などをアドバイスした本人だったと知ってびっくり」

後日、映画を観たあとに、“あのとき出会った清掃員の方も、同じようなアパートに住んでいるのかなぁ”などと、平山と重ね合わせて想像したんだそう。

「映画を観てから、自分にとってのパーフェクトってなんだろうって考えたんです。何かが起きて『あ、これってパーフェクト』なんて思うことはほぼないんですよね。私は車に乗っていると一人で好きなところに行ける自由さを実感できて、自由になれる車っていいなぁ、と思うんです。東京で仕事をした後に、運転しながら葉山方面に帰るとき、逗子が近づいてくると、高揚感を感じます。あるトンネルをくぐった後の空気がすごく気持ちよかったり、海沿いの道がとても心地よかったり。それは毎日通る道でもあるんですが、年に数回だけ、風がフワッと吹き込んできた瞬間とかに『あ、これ最高じゃん』ってしみじみ感じるときがあって。それは突然やってくるから、つい声に出しちゃいますね(笑)」

車を運転する際の写真
車を運転しながら、刻一刻と変わる景色や、空気を感じ取る。毎日のルーティンであり、かけがえのない時間。Photo:Yoko Takahashi

そういう瞬間は決まって一人でいるときの方が多くて、例えば家で好きな音楽を聴いているときや、映画を観ているときにも感じるんだそう。

「心に余裕があるときじゃないとダメかもしれないですね。“帰ったらあれやらなきゃ”とか、頭の中で忙しく考えているときはダメだと思う。私の場合、遠くに行けば行くほど気持ちが切り替わって、そんな瞬間に出会えるから、だから旅が好きなのかもしれません」

家で映画を観ている瞬間
家に帰って、1日の終わりに好きな映画を観ている瞬間は至福。写真は、自宅でヴィム・ヴェンダースの映画『さすらい』(1976年)を観ている瞬間。Photo:Yoko Takahashi

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