『語る音楽家、語られる音楽家』を連載中の坂東祐大さんも、『スター・ウォーズ』シリーズの大ファン。あのオープニングテーマを書いた開祖のジョン・ウィリアムズ。オリジナルの世界観を踏襲しながら、『スター・ウォーズ』の音楽を新しい次元へ昇華させた『マンダロリアン』のルドウィグ・ゴランソン。
そして『スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ』などアニメシリーズの音楽をコツコツ制作し、最新ドラマ『アソーカ』で見事なスコアを手掛けたケヴィン・キナー。3人の作曲家について語ってもらいました。
“引用の天才”、ジョン・ウィリアムズ
『スター・ウォーズ』シリーズの音楽を語る上で、欠かせないのがジョン・ウィリアムズの残した名曲の数々です。個人的な話ですが、小学校5年の頃に公開された『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』(2002年)は、自分の意思で“もう一回観たい!”と思って映画館で2回観た、初めての作品です。
しかし、ジョン・ウィリアムズが手掛けた音楽で、『ハリー・ポッターと賢者の石』(2001年)を観た時の感動を上回ることはありませんでした。正直、あまりインパクトを感じなかったんです。映画自体からは衝撃を受けたのに、なぜ音楽そのものには感動しなかったのか。
後で考えたんですが、メインテーマをはじめとする『スター・ウォーズ』の音楽は、テレビなどで流れていたので、すでに知っていたんですよね。それにしてもエピソード2の劇中で「帝国のマーチ」が鳴れば、映画を観ていない小学生でも、なにか恐怖や威圧を感じるというのは、すごいことだと思いました。
作曲の勉強を始め、ジョン・ウィリアムズの方法論がわかってきて感じたのが、彼は「引用の天才」ということ。実は下敷きとなる作品やスタイルがあり、それらがオーケストラ・サウンドの核になっている。
時には、元ネタに結構まんまの場合もあって、『スター・ウォーズ』の一例でいえば、ジョン・ウィリアムズが敬愛する作曲家のエーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルトが映画『嵐の青春』(1942年)のために書いた音楽と『Main Title - Rebel Blockade Runner 』が、非常に酷似しているという話はスター・ウォーズファンにとっては有名です。ただしジョン・ウィリアムズがすごいのは、そこから出発してもジョン・ウィリアムズ印の彼自身の音楽になっているというところ。彼のメロディーとハーモニーは人を惹きつけて離しません。
他にも、ホルスト『惑星』やヴェルディ『レクイエム』、バルトークなどの楽曲の影響もあると思います。この辺をブレンドしつつも、やはりジョンならではの音楽になっているのは、さすがの一言です。
ひとつ作曲技法について言及しておくと、劇中の音楽の操作の仕方はワーグナーに近い。オペラや交響詩の中で使われる作曲の技法にライトモチーフ(示導動機)というものがあります。モチーフというのは、小さい細胞、短いフレーズみたいなものなのですが、そのモチーフが特定の人物や状況などと結びつけられ、繰り返し使われます。
例えば、あるシーンがあって、そのライトモチーフが前にも登場したけれども、ハーモニーを変えることによって、表情の違うバリエーションを作ったりすることができる。ワーグナーの楽劇でも使われ、その後のオペラや交響詩の作曲でもたくさん使われた作曲の方法です。
映画においてもジョン・ウィリアムズ以外の人もたくさん使用していますが、しかし『スター・ウォーズ』くらい大ヒットした映画作品はなく、各シーンとライトモチーフのイメージが密着して、完全に観た人の頭に染み付いている。そこまで世界的にバズって染み付いたスコアは、おそらくないんじゃないかと思います。
ドラマシリーズを彩る作曲家たち
こうした偉業を成し遂げたジョン・ウィリアムズの後、『スター・ウォーズ』シリーズの劇伴を担当する音楽家は、さぞ大変なことだったと思います。その中でも、2人の音楽家が、それぞれの軸を生み出しました。
まずはドラマシリーズ『マンダロリアン』のルドウィグ・ゴランソン。オファーを受けた時を振り返るインタビューで「ジョン・ウィリアムズのテーマ曲が基準なら難しい状況に追い込まれたと思う」とコメントしています。
なぜなら、ジョン・ウィリアムズの作曲した音楽は、現在のハリウッド映画において、世代的にかなり昔の音楽のスタイル、特に後期ロマン派と呼ばれるある特定の時代のクラシックのオーケストラ作品に精通していないと全く作曲ができないからです。それはゴランソンにとっては全く得意科目ではないというのは明白なことですし、製作陣もそれは望んでいなかったようです。
例えば、『マンダロリアン』のメインテーマは僕の推測ですが、おそらくエンニオ・モリコーネの「荒野の用心棒」にインスパイアされていると思います。これは明らかにジョン・ウィリアムズが影響を受けたコルンゴルトとは違う音楽のスタイルです。
冒頭のリコーダーで(このモチーフがまるで橋幸夫さんの「子連れ狼」のイントロのコーラスのモチーフのように聞こえるのも大変面白いのですが)物語に誘いつつ、サビに入ると、飛翔するようなオーケストラが入ってくる。ここで一気に壮大なあの『スター・ウォーズ』の世界だということがわかるんですよね。変化球でもどういうボールを投げるとスター・ウォーズにとってフレッシュなのかということをものすごく考えているという、そういう工夫があるんですよね。
面白いのはジョージ・ルーカスはデイブ・フィローニに対して“スターウォーズは幅広い音楽をカバーできる”と度々言っていたそうで、劇中でも、特にシーズン1ではエレキギターやアナログシンセを多用している点でも、ゴランソンは『スター・ウォーズ』の音楽世界を拡張した作曲家だと思います。
一方でアニメシリーズ『スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ』や『スター・ウォーズ/反乱者たち』を担当したケヴィン・キナーは、ジョン・ウィリアムズが書いた『スター・ウォーズ』の音楽的な世界を継承しようとしていると感じます。
実際に『クローン・ウォーズ』は、『エピソード2/クローンの攻撃』と『エピソード3/シスの復讐』の間を描いたシリーズで、自作曲以外にも、ウィリアムズのモチーフも律儀に使っています。ビッグバジェットだと思われる『アソーカ』に対し、アニメシリーズは低予算だったと思います。たくさんのエピソードがあるし、ものすごい数の曲数が求められたでしょう。
しかし、オーケストラの打ち込み音源を駆使し、手を抜くことなく、1エピソードずつ丁寧にジョン・ウィリアムズの様式でスコアを作っていることがわかります。キナーさんが継承するという仕事をしたからこそ、安心して楽しめたんだと、『クローン・ウォーズ ファイナルシーズン』を再見しながら、改めて痛感しました。
さて問題は、ここからです。すでにアナウンスされているデイヴ・フィローニが監督する作品では『マンダロリアン』と『アソーカ』が合流するとの噂が。音楽はどちらの方向に舵を取るのでしょうか!
ルーカスの正当なパダワン、デイヴ・フィローニ監督の選択が非常に楽しみです。