石若 駿が語る、ローラン・コック
最近は、作曲の仕事をすることも多く、自分がどんな音楽の部分が好きか、アイデアソースとして、自分が聴いてきた作品を、改めて聴く機会が増えています。先日、CMでジャズのピアノトリオが演奏する曲を書いていた時のこと。作曲を進める中「好きなピアノトリオといえば?」と自分のルーツを振り返る時間があったんです。
中学生の頃、地元の札幌で開催された、ピアニストの松永貴志さんのライブへ行きました。中でも、バックでドラムを叩いていたオーティス・ブラウン3世の演奏に魅了され、すぐに彼の参加した関連作品を探したんです。その中で、オーティスが参加した、ピアニストのローラン・コックがトリオで発表した『Spinnin'』(2005年)と出会いました。作品全体が素晴らしく、何度も聴きました。数あるトリオ編成のアルバムの中で、現在でも上位に来るほど好きな作品です。
しかし、なぜそこまで『Spinnin'』に惹かれたのか。20年近い時を経て、改めて聴き直してみたんです。彼はフランス出身ですが、90年代からNYを基盤に活動しているため、想像するに、当時のジャズの風潮の渦中にいるはず。ところが『Spinnin'』におけるフレージングは、どの系譜とも形容し難い独特な質感。さらに独自のボイシング(譜面上における、音の配置)が一般的なピアノトリオより広く、癖になる。クラシックの室内楽のトリオ編成に通ずるところがあります。
出会った当時は、具体的に分析していませんでしたが、ローラン・コックのクラシックからの影響とジャズの配合のバランスに惹かれたんだと思います。中学生の石若少年を「お前のチョイスは正しかった」と褒めてあげたい。ついでに、多忙の最中に、自分のルーツに立ち返ると、気分が一新されるのでおすすめです。