坂東祐大が語る、中野公揮
僕自身が学生時代から感じている問題の一つに、クラシックから出発した、ただしアカデミックなものでも現代音楽でもない、既存のカテゴライズではくくることが難しい新しい表現をどう紹介したらよいか、ということがあります。
無理やり既存のジャンルに入れ込もうとすると、生楽器で調性的な新曲というだけで、「ポストクラシカル」という乱暴な言葉でくくられることが多くあって、そこにいつもフラストレーションを感じているんです。
現在はパリを拠点に活動する、ピアニストの中野公揮くんは実は大学の後輩。知り合った当時から、新しい音楽の動向を話し合ったりして、すぐ打ち解けました。当時、彼は常田大希くんと〈GAS LAW〉というバンドを組んでいて、それもカッコよかった。
しかし、いつの間にか学校を辞めて渡仏。気がついたらチェリストのヴァンサン・セガールとのデュエット作『Lift』を発表していました。思い立ったら行動するのも魅力。
新作『Oceanic Feeling』を含め、彼の音楽の魅力は、独自のハーモニーと対位法の感覚、そして本人による見事なピアノ演奏から引き出される音色とグルーヴ感にあります。
20世紀までに人類が探究し尽くしてきた調性音楽の世界(ドミソを基調とした音楽)に、自分独自の色を差すことは、とてつもなく難しいことですが、彼はそれに難なく成功している。
それは偶然ではなく、クラシックの文法を習得したうえで、フランスのエスプリを肌で感じ、また最新の音楽、芸術の動向への深い理解から生まれたものです。
ピアニストとしても、技巧的に難しい楽曲を独自のグルーヴで表現してくれる。聴いていると、確実に気持ちの良いツボを押してくれます。ぜひ生で演奏を聴いていただきたい尊敬する音楽家の一人です。