石若 駿が語る音楽家、山中惇史
新しい音楽との出会いは、好きなミュージシャンや知人がSNSで発信する情報がある一方、共演仲間たちの作品からも。彼らの作品から新しい刺激をもらう機会が増えています。
その中の一人が、作曲家であり、クラシックピアニストの山中惇史さん。出会ったのは、東京藝術大学の音楽学部器楽科打楽器専攻へ入学した時。高校生時代から知っていた坂東祐大さん(本連載も隔月で担当)が作曲科の3年生にいて、その同級生だった山中さんを紹介してくれました。
クラシックと並行し、ジャズピアニストの清水くるみさんにも師事。僕も清水さんのファンだったので、すぐに打ち解けました。その後、学園祭でのコンサートを皮切りに、何度も一緒に演奏させていただくことに。アプローチが常に新鮮で、学ぶことも多い共演の中で、特に鮮烈だったのは、打楽器科の実技試験の時のこと。
フィリップ・ユレル作曲、「墓 〜ジェラール・グリゼーの思い出に〜ピアノと打楽器のための」を演奏することになり、ジャズや現代音楽にも精通している山中さんに演奏をお願いしました。
音楽家の一部に、例えば僕の場合はコードや特定の音を「Dメジャーの世界は緑っぽい」など、色で譬える人がいる。山中さんは「ここの小節から先の風景は、セピア色に見えるね」など、音の響きを色彩に譬えます。
抽象的な譬えだけど説得力があり、すぐに同じ感覚を持つことができた。そのおかげで、結果は好成績。その後、大学内では「あの人と共演するといい結果が得られる」と噂が広まったほど。実に縁起が良く、素晴らしい音楽家です。
その後、山中さんは大学院へ進み、卒業後にはなんとピアノ科へ再入学。僕にとっては超人みたいな存在。今は上野耕平トリオのメンバーとして一緒に活動していますが、いまだ演奏するたび、楽しい気持ちにさせてくれますね。