鳴き声自体が、もう音楽です
子供の頃に住んでいた社宅では、犬や猫といったペットは禁止されていました。それでも、小さな鳥を飼うことは認められていたんです。我が家には、私が2歳の頃からブンチョウがいました。ところが、近隣の家族が引っ越すたびに「次の家では飼えない」という理由から、うちで引き取ることがあり、最多で4羽いたことがありましたね。
今、実家にいるセキセイインコは、母を親だと思い込み、人間の言葉を真似ています。「ゴンちゃん、かわいいね」とか、内緒話をする時の低いトーンの話し言葉まで。就寝時はカゴに布をかけるのですが、誰にも見られないところで、練習していて、けなげでかわいいんですよ。
留学中から飼い始めたセキセイインコは、3年前に他界。それ以降、自宅でペットは飼っていなかったのですが、そのうち庭先や外の音が気になり始めたんです。今の我が家には小さな庭があり、本当は借り主が手入れしなければいけないんですが、時間がないので放っておいたら、ちょっとしたジャングルのようになってしまって。
鳥が寄りやすいのか、気をつけて聴いてみると“ヒー、ヒー”と甲高い声のヒヨドリ、“クエークエー”というトロピカルな声で鳴くオナガ、木をくちばしで叩くコゲラなど、さまざまな種類がやってきます。そんな中で一番気になったのが、ガビチョウでした。外来種危険動物に指定されている中国原生の鳥。エキゾティックな声で鳴きますが、なぜかウグイスの鳴き声である“ホーホケキョ”を真似るんです。
鳥は鳴き声でコミュニケーションを取ると思いますが、今暮らしている環境に順応しようとしているのがわかります。実家にいるゴンちゃんと同じように、同じ声で鳴くことで仲間意識や連帯感が強まるのではないかと。
あまりにも気になったのでガビチョウの声を録音し、ピアノで弾いてみることにしました。単音なのですが、鳴き方が独特なので、音を探しながらの作業。ウグイスの真似をするくらい、頭がいいのですから本当にガビチョウの声かさえわかりません。
しかし、人間の感覚からすれば、聴いたことのないような新しいメロディを奏でてくれるんです。しばらく録音と演奏を繰り返すうち、思い出したのがメシアン(A)です。フランスのさまざまな場所で、鳥の鳴き声を採譜していった現代音楽家。手軽な録音機器がない時代に、鳥のさえずりを生で聴き、そのまま譜面に起こしていったのですから、ものすごく正確な音感の持ち主だったことがわかります。
音楽的には、少しとっつきづらい現代音楽ではありますが、さえずりのメロディに注意して聴いてみると、聴きやすくなるのが面白いんです。そのうち意識的に鳥をモチーフにした音楽を聴くようになったんです。
ジャヌカン(B)はルネッサンス音楽の作曲家。作品では、オノマトペで、鳥の鳴き声を表現しています。
口笛奏者のデヴィッド・モリス(C)。鳥を意識しているかどうか定かではありませんが、その演奏は鳥のさえずりそのものです。
さらに、豚などを楽器として演奏(?)したことで伝説的な存在になっているエルメト・パスコアール(D)は、鳥の鳴き声そのものにコードをつけて、ピアノを演奏しました。
録音技術の発達とともに、シャソール(E)はさえずりをサンプリングして編集。最新の音楽に仕立てています。
ケイト・ブッシュ(F)の作品にも、鳥の鳴き声に合わせて歌いだす作品もあって。ピアノの伴奏がキャッチーですごく耳に残ります。鳥の声自体は入っていませんが、個人的には坂本龍一さんが夏目漱石の『草枕』の冒頭部分をモチーフにして書かれたという「Hibari」も、忘れられない作品です。
人間は国や地域によって、言語が変わります。母に懐いて、人の言葉を真似ていたセキセイインコのゴンちゃんや、“ホーホケキョ”と鳴くガビチョウなど、鳥たちもまた環境に応じて声の色、意思の伝達の方法を変えます。
鳥の声をモチーフにした音楽を聴いていると、人間の意思を伝達する言葉自体、そもそも鳥から影響を受けているのではないかと感じます。そんなことを思いながら鳥の声に耳を傾けてみると、新しい音楽を作るヒントに思えます。