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音楽家・コトリンゴが選ぶ、鳥の声を感じる音楽

ジャヌカンからケイト・ブッシュまで。鳥の鳴き声やさえずりをモチーフにした楽曲の数々、そして鳥と人間の関係性を検証する。

初出:BRUTUS No.844『はじまりの音楽』(2017年4月1日発売)

text: Katsumi Watanabe

鳴き声自体が、もう音楽です

子供の頃に住んでいた社宅では、犬や猫といったペットは禁止されていました。それでも、小さな鳥を飼うことは認められていたんです。我が家には、私が2歳の頃からブンチョウがいました。ところが、近隣の家族が引っ越すたびに「次の家では飼えない」という理由から、うちで引き取ることがあり、最多で4羽いたことがありましたね。

今、実家にいるセキセイインコは、母を親だと思い込み、人間の言葉を真似ています。「ゴンちゃん、かわいいね」とか、内緒話をする時の低いトーンの話し言葉まで。就寝時はカゴに布をかけるのですが、誰にも見られないところで、練習していて、けなげでかわいいんですよ。

留学中から飼い始めたセキセイインコは、3年前に他界。それ以降、自宅でペットは飼っていなかったのですが、そのうち庭先や外の音が気になり始めたんです。今の我が家には小さな庭があり、本当は借り主が手入れしなければいけないんですが、時間がないので放っておいたら、ちょっとしたジャングルのようになってしまって。

鳥が寄りやすいのか、気をつけて聴いてみると“ヒー、ヒー”と甲高い声のヒヨドリ、“クエークエー”というトロピカルな声で鳴くオナガ、木をくちばしで叩くコゲラなど、さまざまな種類がやってきます。そんな中で一番気になったのが、ガビチョウでした。外来種危険動物に指定されている中国原生の鳥。エキゾティックな声で鳴きますが、なぜかウグイスの鳴き声である“ホーホケキョ”を真似るんです。

鳥は鳴き声でコミュニケーションを取ると思いますが、今暮らしている環境に順応しようとしているのがわかります。実家にいるゴンちゃんと同じように、同じ声で鳴くことで仲間意識や連帯感が強まるのではないかと。

あまりにも気になったのでガビチョウの声を録音し、ピアノで弾いてみることにしました。単音なのですが、鳴き方が独特なので、音を探しながらの作業。ウグイスの真似をするくらい、頭がいいのですから本当にガビチョウの声かさえわかりません。

しかし、人間の感覚からすれば、聴いたことのないような新しいメロディを奏でてくれるんです。しばらく録音と演奏を繰り返すうち、思い出したのがメシアン(A)です。フランスのさまざまな場所で、鳥の鳴き声を採譜していった現代音楽家。手軽な録音機器がない時代に、鳥のさえずりを生で聴き、そのまま譜面に起こしていったのですから、ものすごく正確な音感の持ち主だったことがわかります。

(A)『Catalogue d'Oiseaux Olivier Messiaen』Momo Kodama
パリ在住のピアニストによる作品集。「キバシガラスなど、フランスの代表的な鳥の名を表題にした作品。数あるCDの中で、一番好きですね」(コトリンゴ)

音楽的には、少しとっつきづらい現代音楽ではありますが、さえずりのメロディに注意して聴いてみると、聴きやすくなるのが面白いんです。そのうち意識的に鳥をモチーフにした音楽を聴くようになったんです。

ジャヌカン(B)はルネッサンス音楽の作曲家。作品では、オノマトペで、鳥の鳴き声を表現しています。

(B)『Le Chant des Oyseaulx』Ensemble Clément Janequin
オペラから童謡まで、幅広い作風で知られるジャヌカンの代表作『鳥の歌』。「曲の中間あたりで“チチチチ”と鳥の鳴き声を擬音語で表現しています」(コトリンゴ)

口笛奏者のデヴィッド・モリス(C)。鳥を意識しているかどうか定かではありませんが、その演奏は鳥のさえずりそのものです。

(C)「Post Horn Gallop」David Morris
ヘルマン・ケーニッヒの楽曲をオーケストラをバックに口笛で見事に演奏。「爽快さや勢いは“口笛版ガビチョウ”といえるかも(笑)」(コトリンゴ)。『Whistling Down The Wind』収録。

さらに、豚などを楽器として演奏(?)したことで伝説的な存在になっているエルメト・パスコアール(D)は、鳥の鳴き声そのものにコードをつけて、ピアノを演奏しました。

(D)「Quando As Aves Se Encontram, Nasce O Som」Hermeto Pascoal e Grupo
マイルス・デイヴィスも魅了した奇才による、鳥との共演曲。「この人自身が自由な鳥のような存在です」(コトリンゴ)。『Festa Dos Deuses』収録。

録音技術の発達とともに、シャソール(E)はさえずりをサンプリングして編集。最新の音楽に仕立てています。

(E)「Bird PartⅡ」Chassol
コトリンゴと同じく、バークリー音楽大学出身のフランス人作曲家。世界中で絶賛された2015年の傑作。「テクノロジーを駆使して、演奏と鳥の声をシンクロさせています」(コトリンゴ)。『Big Sun』収録。

ケイト・ブッシュ(F)の作品にも、鳥の鳴き声に合わせて歌いだす作品もあって。ピアノの伴奏がキャッチーですごく耳に残ります。鳥の声自体は入っていませんが、個人的には坂本龍一さんが夏目漱石の『草枕』の冒頭部分をモチーフにして書かれたという「Hibari」も、忘れられない作品です。

(F)「Aerial」Kate Bush
高低の広い声域を使い分ける、イギリスきっての個性派シンガー。2005年に発表した超大作から。「アルバムのラストを飾る短い曲。見事に鳥とデュエットしています」(コトリンゴ)。『Aerial』収録。

人間は国や地域によって、言語が変わります。母に懐いて、人の言葉を真似ていたセキセイインコのゴンちゃんや、“ホーホケキョ”と鳴くガビチョウなど、鳥たちもまた環境に応じて声の色、意思の伝達の方法を変えます。

鳥の声をモチーフにした音楽を聴いていると、人間の意思を伝達する言葉自体、そもそも鳥から影響を受けているのではないかと感じます。そんなことを思いながら鳥の声に耳を傾けてみると、新しい音楽を作るヒントに思えます。