「ミュージシャンになりたいならマネーよりリスペクトが大事。それを証明したい」
BRUTUS(以下B)
もともと音楽ビジネスにも強い関心があったんですか?
小袋成彬(以下O)
そこまで深く考えてはいなかったんですけどね。ただ、CDの原価とか、デザイナーへの発注費とかはもっと勉強したいと思ってました。具体的な金額というより、リスペクトと信頼を表現するためのお金の話です。
人同士の信頼が前提で、その信頼が大きければ大きいほどお金が生まれていくという仕組みを知りたい気持ちが、なんとなく自分の中にはあったんです。
B
現在は、日本とロンドンの2拠点生活ですが、音楽ビジネスの違いは感じます?
O
向こうはいろいろ活況ですよね。音楽出版社のM&Aも盛んですし。マネジメントと音楽出版がくっついてる感じなんです。
B
音楽出版社が楽曲の権利を扱い、そこで利益が生まれるシステムが配信中心の時代ではすごく重要ですよね。
O
そうですね。向こうはイノベーションが速いし、ビジネスとカルチャーのすべてが合わさっている。イギリスだとシンクロ権といって、映像に音楽がつくと結構お金が入るから、そういう点でも出版ビジネスが重要なんです。小さなラジオ局からでもちゃんとお金がアーティストに入る。
日本ではタイアップという仕組みが商習慣として大きくて、CMとかでの曲の使用料をもらわない代わりに宣伝してね、となる。俺はその仕組みにリスペクトを感じないから、タイアップは基本的に断っているんです。
B
音楽とお金の考え方がいろいろ違う。
O
俺自身はあんまり音楽で金を稼ごうということには興味がないんです。お金は、どう使うかの方が大事。ストックよりフロー。ただ、ビジネス話もできるタイプだから、いろんな情報が集まってきちゃうんですけどね。業界の裏話をへえーって聞いてる感じです。
B
ストックとフローで言うと、音楽活動でいちばんお金をかけている部分は?
O
自分自身だと思いますよ。ビットコインなんかやるより自分がいちばんの投資先。それは間違いないです。新しいアルバム(『Zatto』)を作るときも、スタジオを1年分くらい前払いで借りて「やったる!」という感じで臨みました。
B
これからの時代の音楽とお金の関係をどう見ていますか?
O
周りを見てると、若い子たちがよく「Money, Power, Respect」って言うんですよ。いろんな人にチャンスが与えられる時代だし、マネーは昔より稼ぎやすくなった。
2分の楽曲をSpotifyにアップロードしまくった方が、8分あるジャズより稼げる。「Money, Power, Respect」の、マネーがいちばん頭に来るやつが多くなってきたんです。そして、マネーをもらえることでリスペクトも稼げたと思ってるやつが結構増えている。それはマジで残念だなと思います。リスペクトがいちばん最初に来なきゃダメじゃないですか。
なのに、みんなマネーマネーって金を見せびらかしてる。そんなやつにはマネーの稼ぎ方を教えたくないし、パワーも与えたくない。否定はしないですけど、俺はそういう世界に生きてるのはかわいそうだなと思う。これからもしミュージシャンを目指すんだったら、リスペクトをトップに置いてほしい。楽器を丁寧に扱うこと、音楽をたくさん聴くこと、マイルス・デイヴィスを聴くこと。本質を見抜く力、目の前の金に走らない力を持つ。
俺は金持ちでもなんでもないですけど、リスペクトだけは稼いできたと思ってます。マネーはきっとここからついてくると信じてるだけ。ミュージシャンになりたいならマネーよりリスペクトがいちばん大事。俺がそれを証明したいです。