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村上春樹の私的読書案内『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』

村上春樹が自宅書棚から選んだ、手放すことができない51冊の本。私的な読書案内文と共に。

Photo: Keisuke Fukamizu / Text: Haruki Murakami

『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』

創作を志す人たちにとっては、多くの示唆に富んだ書物であると思う。

人類は長いあいだ「意識」というものを持たずに生きてきた、というのがジェインズの主な主張だ。人類の歴史を振り返れば、いわゆる「意識」が生まれたのは、わずか3000年ほど前のことに過ぎない。それ以前の人間は右脳で神の声を聞いて、それを頼りに行動してきた。つまり自己というものを持たなかったわけだ。

しかし人々が農耕社会に定着し、文明を築き、文字を得て、その結果意識を身につけたとき、神の声はもう聞こえなくなってしまう。人類にとって、どちらの状態が本当に幸福だったのだろう?

とても大胆な仮説だが、読み進んでいくうちに、その広大な世界観の中にずるずると引きずり込まれていく。多くの考証、例証を並べた、とても説得力のある本だ。創作を志す(つまり天の声を聞こうとする)人たちにとっては、多くの示唆に富んだ書物であると思う。

『神々の沈黙 意識の誕生と文明の興亡』ジュリアン・ジェインズ/著