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村上春樹の私的読書案内『スローターハウス5』

村上春樹が自宅書棚から選んだ、手放すことができない51冊の本。私的な読書案内文と共に。

Photo: Keisuke Fukamizu / Text: Haruki Murakami

『スローターハウス5』
(単行本刊行時のタイトルは『屠殺場5号』)

ヴォネガットはサイエンス・フィクションからの「異業種乱入」みたい。

現在では『スローターハウス・ファイブ』という題名で刊行されている。日本で本書の初版が刊行されたのは1973年(原書は1969年にアメリカで刊行)、僕がまだ大学生の頃だ。

当時は音楽や映画の世界で、若者たちの共感・支持を得る作品やアーティストたちが続出していたが、小説の世界では今ひとつ動きが鈍かった。そこにようやく風穴を開けたのがヴォネガット、ブローティガン、そしてフィリップ・ロスの3人だった。

とくにヴォネガットはサイエンス・フィクションからの「異業種乱入」みたいなところがあり、そのストーリー展開の「普通じゃなさ」、独特のとぼけたユーモア感覚、そしてそこに漂う淡い哀しみ、それらはどこまでも斬新だった。

当時ヴォネガットが我々に突きつけたのは、「この世界、どこまでがシリアスで、どこからがシリアスではないのですか?」という問いだった。そう、そんな線引きなんてできっこないのだ。

『スローターハウス5』カート・ヴォネガット・ジュニア/著