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建築家・中村好文がもう一度観たい映画と、その理由。『ジョンとメリー』

観るたびに新たな発見があったり、人生の変化に気づいたり。名作とは、何度観ても、また観たいと思わせてくれる作品のことかもしれません。映画を愛する建築家・中村好文さんが繰り返し観る、人生の伴走者ともいうべき一本とはどんな映画なのでしょうか?

text: Masae Wako

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良い居住空間と人が作る時間の中に、身を委ねたいから

建物や部屋がスクリーンに映されると、いつだって身を乗り出して見入ってしまいます。1969年公開の『ジョンとメリー』も、学生時代に映画館で10回は観たはず。ニューヨークの街と、ダスティン・ホフマン演じる主人公ジョンの部屋が、なにしろ良かったんです。

古いビルの上に鉄骨で増築されたロフト風メゾネットで、上階はウェグナーの椅子などが並ぶアトリエ、下階には小さな朝食テーブルのあるキッチン。ミア・ファロー扮するメリーが泊まった朝、ジョンが〈ケメックス〉のサーバーでコーヒーを淹れるのですが、一連の動作から住み慣れた感じが伝わってくるというのかな、料理好きで几帳面な独身男性の、すっかり住空間が体に染み込んでいる感じが面白かった。僕の設計するキッチンの原点です。

空間に置かれる小物まで丁寧に設えられた作品は、大画面で観るたびに発見があります。ジョンの棚にはノーマン・メイラーの本が並び、壁には黒川紀章の建物の写真。そこに人物のキャラクターが表れ、直接は語られないサイドストーリーも見えてきます。

細部の積み重ねが、作り物の世界にリアリティを与え、だから身も心も委ねられる。音楽を聴くように、作品に流れる時間の中を、何度でもたゆたいたくなるんです。

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