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紀伊宗之×林健太郎。2人の映画プロデューサーが語る、映画業界の課題とは



映画やアニメ作品の“パイロットフィルム”に特化した映画祭『渋谷パイロットフィルムフェスティバル』が12月14日に渋谷・シネクイントで開催された。上映とともに行われたトークプログラムでは、「プロデューサーが見据える映画の未来」について、映画プロデューサーの紀伊宗之と林健太郎が対談。MC大島育宙の進行のもとで建設的な対話がなされた。本記事では、本イベントの主催者である川村真司、栗林和明を含めた5名のクリエイターによる「創作意欲を刺激した映画」も紹介する。

photo: Jun Nakagawa / text: Kohei Hara

“パイロットフィルム”が、日本映画界を明るくする?

ともに大手映画会社を離れて、新たに映画製作会社を立ち上げた共通点を持つ紀伊と林。年齢やキャリアに差はあれど、日本映画業界がはらむ産業としての持続可能性や新人クリエイターの育成、海外進出などに対する問題意識は共有している。そんな両名は最近、広義の意味での“パイロット版”を作ることでその後の長編映画製作を円滑に進める挑戦をしていた。

紀伊は、東映時代の最後のプロデュース作品である『十一人の賊軍』で、白石和彌監督と相談しながら本編2時間半分の絵コンテ動画を作成。「上層部からのゴーサインが出やすく、事前にスタッフ間でイメージを共有することで予算やスケジュール管理もしやすかった」と紀伊は振り返る。

一方の林は2023年、ホラー短編4作品から成る『NN4444』を企画。先行上映では全回満員に。林は「長編映画実現に先駆けて作家と意識を共有することができ、海外マーケットでも名刺代わりになった」と成果を述べた。

「海外では『ソウ』や『セッション』のようにパイロット版から発進した映画もあるが、日本では新人監督のフックアップ例がほぼない」と課題感を共有した林は、「パイロットフィルムを劇場で上映すればいいのでは」と提案。

対して紀伊は「クラウドファンディングのように、パイロット版を観てその場で投資できるシステムがあればより面白い。映画業界では評価指標が“300館で公開”とかしかない中、新しいファイナンスとマネタイズのモデルになり得る」と可能性に言及。パイロットフィルムを業界内部だけでなく外にも開くことで、才能発掘と産業の課題に応える好例になるかもしれない。

林健太郎(左)と紀伊宗之(右)。

5名のクリエイターが選ぶ、創作の“原点”に立ち戻る特別な映画

SELECTOR 1:紀伊宗之

『がんばっていきまっしょい』
愛媛・松山を舞台に、ボートに青春を懸ける高校生たちの青春を描く。「広島の劇場に勤務中、感銘を受け、興行に力を入れた作品。結果的に広島が日本で2位の興行成績を収め、その後の自信にも繫がった一本です」

SELECTOR 2:林 健太郎

『PUPARIA』
アニメーター・玉川真吾による自主制作アニメ。YouTube上で公開され、1,000万回再生を超えるほど話題に。「どれだけの執念と想像力がこの作品を生み出したのだろう。次の作品に挑まれる際は真っ先に名乗りを上げたい」

SELECTOR 3:大島育宙

『サユリ』
夢のマイホームを手にした一家が、次々と謎の怪異に襲われていく。「2024年に観て、一番元気が出た映画。メンタルもフィジカルもできる限り元気でないと、まずは何も始まらない!“*閲覧注意”系のホラー映画です!」

SELECTOR 4:川村真司

『七人の侍』
『七人の侍』
破格の製作費と年月をかけた、日本映画史上空前の超大作。「映画の面白さが全部詰まった作品。この前にお蔵入りとなった『侍の一日』や『日本剣豪列伝』も、パイロット版を作っていたらどうなっていたのか夢想してしまう」

発売・販売元:東宝 ©1954 TOHO CO., LTD.ALL RIGHTS RESERVED.
「七人の侍〈東宝DVD名作セレクション〉」DVD発売中

SELECTOR 5:栗林和明

『レディ・プレイヤー1』
スティーヴン・スピルバーグ監督による、仮想世界を描いたSFアクション。「今できることをすべてやりきったような最高峰のエンタメ。“で、お前たちはどんなものを作るんだ?”と問われているようで、気合が入りました」