“パイロットフィルム”が、日本映画界を明るくする?
ともに大手映画会社を離れて、新たに映画製作会社を立ち上げた共通点を持つ紀伊と林。年齢やキャリアに差はあれど、日本映画業界がはらむ産業としての持続可能性や新人クリエイターの育成、海外進出などに対する問題意識は共有している。そんな両名は最近、広義の意味での“パイロット版”を作ることでその後の長編映画製作を円滑に進める挑戦をしていた。
紀伊は、東映時代の最後のプロデュース作品である『十一人の賊軍』で、白石和彌監督と相談しながら本編2時間半分の絵コンテ動画を作成。「上層部からのゴーサインが出やすく、事前にスタッフ間でイメージを共有することで予算やスケジュール管理もしやすかった」と紀伊は振り返る。
一方の林は2023年、ホラー短編4作品から成る『NN4444』を企画。先行上映では全回満員に。林は「長編映画実現に先駆けて作家と意識を共有することができ、海外マーケットでも名刺代わりになった」と成果を述べた。
「海外では『ソウ』や『セッション』のようにパイロット版から発進した映画もあるが、日本では新人監督のフックアップ例がほぼない」と課題感を共有した林は、「パイロットフィルムを劇場で上映すればいいのでは」と提案。
対して紀伊は「クラウドファンディングのように、パイロット版を観てその場で投資できるシステムがあればより面白い。映画業界では評価指標が“300館で公開”とかしかない中、新しいファイナンスとマネタイズのモデルになり得る」と可能性に言及。パイロットフィルムを業界内部だけでなく外にも開くことで、才能発掘と産業の課題に応える好例になるかもしれない。