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是枝裕和の新作は“そして母になる”物語。ソン・ガンホがカンヌ国際映画祭男優賞を受賞した監督作が公開

是枝裕和監督の最新作で、初の韓国映画『ベイビー・ブローカー』が公開される。

photo: Miharu Saito / text: Yusuke Monma

赤ちゃんポストに赤ん坊を預けた女、赤ん坊の取引で金を得ようとするブローカー、彼らを追う刑事 — 是枝裕和が韓国を舞台に、韓国を代表する俳優たちと作り上げた『是枝裕和監督の最新作で、初の韓国映画『ベイビーブローカー』は、赤ちゃんポストを介して出会った人々が、赤ん坊の買い手を探す旅を通じ、“産むこと”“生まれること”の尊さと向き合う物語だ。「2016年に『ゆりかご』と題した短いプロットを書いたんです。それが韓国の赤ちゃんポストをめぐる話で— 」。是枝は本作の発端をこう振り返る。

是枝裕和

そもそも13年に『そして父になる』を作ったあたりから、赤ちゃんポストや養子縁組の問題には興味を持っていたんですよね。

ただ、その題材をストレートに映画にするのは難しいなと思っていたところ、韓国にもベイビー・ボックスと呼ばれる、赤ちゃんポストと同様のものがあると聞いて『ゆりかご』を書いたんです。

その時点でソン・ガンホさん、カン・ドンウォンさん、ペ・ドゥナさんの出演を想定していました。彼らとはそれぞれ、機会があれば映画を作りましょうと話していたので、この題材なら一緒にできるんじゃないか、と。それが本作のスタートでした。

BRUTUS

本作では赤ちゃんポストを通じて知り合った人々が、旅を経て、家族のような関係を築いていきます。それは“血”ではないものでつながる人々の姿を描いた、『万引き家族』と共通するテーマです。また『万引き家族』と同様、ここでは“母になる”ことに焦点が当てられています。

是枝

『万引き家族』の信代(安藤サクラ)は、自分では産まないけれど、母になりたいと願う女性でした。

本作も、表のストーリーはベイビー・ボックスに預けられた赤ん坊をブローカーが売り歩く話ですが、裏のストーリーとしては、母になることを選ばなかった女性たちが赤ん坊との関わりを通じ、母になる物語にしたいと考えていました。

『そして父になる』の頃は、男性は女性と違い、子を持つだけでは父になれないと実感していたんですよね。でもある人に言われたんです、女性も子を産んだからといって母になる実感を持てるわけじゃない、母性が芽生えずに苦しむ人もいるんだって。

そのとき自分の男性目線を反省した経験から、枝分かれするようにして生まれた作品が本作と『万引き家族』なんだと思います。

命を祝福する映画にしたかった

BRUTUS

その一方で、『万引き家族』とは対照的ともいえる後味を、観たあとに感じます。

是枝

韓国でリサーチをした際に、ベイビー・ボックス出身の子供たちにも話を聞きましたが、「生まれてきてよかったのか?」と葛藤する彼らの切実さと向き合ったとき、その問いに答えられる作品にしなければいけないなと思ったんです。

韓国で取材していると、母親に対する厳しい意見もあって、「捨てるなら産むな」と言う人すらいました。でも捨てられた子が生まれたことを後悔したり、母親が産んだことを後悔したりするような着地は、この題材ではしたくなかった。

子供に対して、生まれてきてよかったんだよとストレートに伝えてあげられる作品にしたかったんです。命を祝福する映画にしなければな、と。

BRUTUS

本作はすべて韓国で撮影されていますが、韓国の撮影環境は日本と比べてどう違いましたか?

是枝

韓国の映画界は労働改革が進んでいて、1日の撮影時間は12時間以内、トータルでも週52時間を超える撮影は許可されないんです。ハラスメント防止のために、リスペクト・トレーニングを受けることも徹底されていて、現場では誰も怒鳴らない。

でもちゃんと寝て、ちゃんと食べていれば、イライラしないから怒鳴らなくなるってみんな言ってましたね。もちろん韓国のやり方をそのまま日本に導入すれば、すべてうまくいくとは限らないけど、学ぶべきところは多いと思います。

BRUTUS

フランスで撮影した前作『真実』に続き、本作も海外で撮影した海外作品です。でもこれまで同様の是枝作品にしか見えません。

是枝

海外だからこうしなきゃとか、特に考えずに、日本と同じようにやっているからかもしれません。ただ、「今回も是枝作品でしたね」と言われることが果たしていいことなのか。

それは意図せず出ているものだし、自分のことがあまり好きじゃない人間としてはよくわからないな(笑)。

是枝裕和_ベイビー・ブローカー
『ベイビー・ブローカー』監督:是枝裕和/出演:ソン・ガンホ、カン・ドンウォン、ペ・ドゥナ、イ・ジウン(IU)/『パラサイト 半地下の家族』のスタッフが参加した映像も美しい。6月24日、TOHOシネマズ日比谷ほかで全国公開。