深い森と映画館が溶け合い、異世界を近くに感じる
ブンミおじさんの森
2022年、恵比寿の東京都写真美術館で開催されたマシュー・バーニーの特集上映に足を運んだ時、抱き合わせでかかっていたのが『ブンミおじさんの森』。アーティストではなく映画監督としてのアピチャッポンの作品に触れたのは初めてでした。

輪廻転生をテーマにした本作は、病を患い先が長くないことを悟ったブンミという男が親戚を自らの農園に呼び寄せるところから始まります。劇中彼らの元には亡くなった人物がさまざまな姿で現れるのですが、登場人物たちは驚きながらもそれを受け入れていく。
私たちが前提とする生死の境界が無効化した作品世界を美しい森の映像とともに浴びていると、神話的な風景と映画館が溶け合って、自分もその輪廻転生の輪に巻き込まれていく不思議な感覚になるんですよね。死ぬことが怖くなくなるような、死生観がふっと緩められたような気がしました。
僕は日頃、AIという人間と別の存在が、世界をどう見ているかを絵画や彫刻を通じて表現しようと試みています。その根底には、この世界は私たち人間がすべてを背負わなくてもいいんじゃないかとの思いがあって。ゆえに本作がもたらす、自分がいるのとは別の世界が、すぐ近くに存在してくれている安心感には救いを感じました。
物理的に映画は終わっても、その作品世界が閉じることなく心に残っていく。そしてその情景を思い出すことで、どこか安心していられる。そんな状態こそが、僕にとって沁みるという感覚です。
