子供と大人の素直な対話を通じて、自らを省みる
カモン カモン
ホアキン・フェニックスが好きで、主演作と知り前情報なしに観に行った『カモン カモン』。前作『ジョーカー』の怪演が記憶に新しかったので、ギャップを感じるとともに、平坦ながらも特別な映画を観た余韻に包まれたことを覚えています。

ホアキン演じるジョニーと9歳の甥ジェシーが次第に心を通わせるさまが描かれる本作。軸にあるのは対話です。ジェシーは容赦なく素朴な疑問を投げかけ、ジョニーは答えを持たなかったり、自然と避けていたりした問いに向き合うことに。それが物事を良い方向へ導く展開からは、言葉数が決して多くない自分自身、話す大切さに気づかされました。
また子供の素直な一言や本の引用など作中には良い言葉がちりばめられており、観返すたび違うところが目に留まるのですが、特に印象深いのは、インタビューを録音する自分の仕事についてジョニーが語る「平凡なものを不滅にするってすごくクールだ」の一言。
歌人として、日常を短歌にする試みを続ける自分としてはどこか似た部分を感じて、勇気づけられる思いがしましたね。劇的な展開で心が大きく揺さぶられることはなくとも、作品の世界観に浸るほど、煮卵みたいに味が染みていく。それが僕にとっての沁みる映画。物語の幕を閉じた後も続く自分の生活に、自然と作用していくものだと思います。
