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現役プロレスラーと、あるカフェのマスターが、プロレス映画『アイアンクロー』を語る

「アイアンクロー(鉄の爪)」という必殺技で知られるプロレスラー、フリッツ・フォン・エリック一家に起こった悲劇を描く、プロレス映画の新たな傑作『アイアンクロー』が4月5日公開される。映画好きとしても知られる、現在アメリカで活躍する現役のプロレスラー、竹下幸之介氏と、大のプロレスファンでもある、鎌倉の〈カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ〉のマスター、堀内隆志氏に熱く語ってもらった。

text: Mikado Koyanagi

プロレス映画には、栄光も悲哀も詰まっている

この春、『マーサ、あるいはマーシー・メイ』で知られる鬼才ショーン・ダーキン監督の新作『アイアンクロー』が公開される。「アイアンクロー」という言葉の響きに懐かしさを覚える人も多いのではないか。

この映画は、顔を鷲掴(わしづか)みにしてとどめを刺す、その「アイアンクロー」という必殺技で活躍したプロレスラー、フリッツ・フォン・エリックと、父と同じ道を歩んだ息子たち一家を見舞った悲劇を描いた映画だ。

そこで、この作品について、映画好きとしても知られる、現在アメリカで活躍する現役のプロレスラー、竹下幸之介氏と、大のプロレスファンでもある、鎌倉の〈カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ〉のマスター、堀内隆志氏に熱く語ってもらった。ちなみに、竹下氏は〈ディモンシュ〉夏の名物メニューの「パフェ・レモンシュ」のファンでもある。

竹下幸之介

僕が初めてディモンシュに行かせてもらったのは、4〜5年前。アントーニオ本多さんとかとご一緒した23〜24歳の時だったと思います。

堀内隆志

僕は竹下選手のデビュー戦も武道館で観ていますからね。感激どころではなかった。本当に嬉しかったですよ。

竹下

僕は今、フロリダのオーランドというところに住んでるんですけど、AEWという団体でプロレスやってて。もっと大きな団体にWWEというのがあって、そこで中邑真輔さんという日本でもアメリカでも有名なプロレスラーの方がいるんですけど、中邑さんが堀内さんと仲が良いというのは知っていて。

だから、中邑さんに初めて会った時に、僕も堀内さんのお店にはよく行っているんですという話をしたら、一気に仲良くなれて。それが、ここ1~2年の話ですかね。

堀内

竹下さんが映画好きなのは、SNSの発信でよく知っていました。ウェス・アンダーソンとかお好きで、そのアントーニオ本多さんと、たぶんウェスのデビュー作のタイトルにちなんだ〈ハッピー・モーテル〉というユニットをやられていたり、とにかく只者ではない(笑)。でも、お店では映画の話はしたことがなかったので、今日は楽しみです。

竹下

はい、もともとビル・マーレイが好きで、そこからウェス・アンダーソンにつながったんですよね。

切ない、プロレス映画

堀内

それでは、早速『アイアンクロー』の話をしましょうか。もちろん、フリッツ・フォン・エリック一家の悲劇はファンの間では有名で、ある程度覚悟して観たんですが、改めて切ないなと思って。

僕が子供の頃は、プロレスラーというのはヒーロー的な存在だったんです。自分が年を重ねるに従って、そのうち同世代の人たちが、さらに自分の子供世代が現役として活躍する中で、人間としてレスラー生活を全うしてほしいなという気持ちに変わってきたんですね。

あれだけ体を張って僕たちに夢を与えてくれるレスラーの方々には、引退後も幸せな生活を送ってほしい。あの映画を観ると切なくなる一方で、家族の支えというのも印象に残りましたね。

竹下

この映画は、次男のケビン・フォン・エリックを中心に描かれていると思うんですけど、ケビンの息子も今プロレスをやっていて。その息子が最近、僕の上がっているAEWで、『アイアンクロー』のPRを兼ねて試合をしていたり、僕は今この映画とかなり近いところにいるんですよね。

もちろん、悲しい、衝撃的なストーリーですけど、言ってしまえば、僕にとっては知っている人の話なので、より観ていて身につまされるものがありましたね。

『アイアンクロー』
「アイアンクロー(鉄の爪)」という必殺技で知られるプロレスラー、フリッツ・フォン・エリック一家に起こった悲劇を描く、プロレス映画の新たな傑作。中心となる次男のケビンをザック・エフロンが演じる。監督はショーン・ダーキン。4月5日、全国劇場で公開。

堀内

僕はお父さんの時代はさすがによく知らないんですけど、息子のケビンとかデビッドが全日本プロレスに上がっていた頃はよく見ていました。スタイルが良くて、線が細いんだけどちゃんと筋肉もついていて。プロレス自体がスマートな感じがしましたね。

あと、この映画には、ブルーザー・ブロディとかリック・フレアーのような、お馴染みのレスラーも出てくるんですけど、演じた方は、みなさんすごく役作りをされているんだなと思いましたね。フォン・エリック一家もそうですけど、ファン目線で言うと、あまり違和感はなかったですね。

竹下

そのへんは、僕もかなりリアリティはあったと思います。すごい細かいことを言うと、技のチョイスとかも、実際その時代の技で。映画によっては、この年代にこの技出してないだろうというのが多かったんですけど、今回はそんなことなかったですね。

堀内

「アイアンクロー」という技は、今どうなんですか。

竹下

僕が子供の頃も、近所のおっちゃんとかによくあの技かけられていましたよ(笑)。昭和の外国人レスラーって、いろいろ触れ込みがあって、話はほとんど盛られていると思うんですけど。例えばフリッツ・フォン・エリックは、握力が100㎏超えているというマスコミが作った噂とか、リンゴを握りつぶす映像を流したりとか。

だからか、プロレスを知らない人でも「アイアンクロー」と言う人は多いですよね。僕が所属しているDDTという団体でも、樋口和貞という元力士のレスラーがいるんですけど、彼の「ブレーンクロー」はほぼ同型ですね。

今はプロレスも進化しているんで、彼なんかは、そこから派生して、相手のこめかみを掴んだ状態で上に持ち上げて叩きつけるという、「ブレーンクロー・スラム」まで行くんですけど。さすがに、「アイアンクロー」でギブアップとるレスラーは今はなかなか(笑)。

堀内

昔は、「アイアンクロー」で、水戸黄門的に試合が決まっていましたからね。まさに必殺技。

竹下

それこそ、ケビンの2人の息子、ロスとマーシャルは、今でも「アイアンクロー」を使ってますね、これがレガシーという部分では素晴らしいことなんですけど、逆に言うと、プロレスにおいて2世、3世レスラーが難しいのってそれがあって、お父さんの技を継がなきゃいけないという縛りだけじゃなく、この映画のように、そもそも、お父さんが家業のように息子たちに無理やり継がせたり。

そこが観ていて辛かったですよね。もし僕に子供がいたら、絶対プロレスさせないのになと思いました。あんなにしんどい仕事はなかなかないんで。

プロレス映画『アイアンクロー』
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プロレス映画の傑作とは

堀内

ところで、竹下さんは、ほかに好きなプロレス映画はありますか。僕は、『劇場版プロレスキャノンボール2014』ですね。DDTのレスラーたちが、いろんなグループに分かれて盛岡まで旅をするという。その珍道中も楽しくて。

竹下

僕はその時DDTでデビューはしていたんですが、まだ高校生で大阪にいたんで、映画には参加していないんですよ。僕は小ちゃい時からプロレスが好きなんですけど、いわゆる物心がついて最初に観たプロレス映画が、いかがプロレスするという『いかレスラー』なんです(笑)。

その中には、西村修という無我の境地を悟ったレスラーが入っていて。親に言って、3回映画館に連れていってもらいましたね、お父さんはもう行きたくないって言ってましたけど(笑)。

あとは、やっぱりミッキー・ロークの『レスラー』ですね。僕は、今はアメリカのAEWというメジャーな団体で試合してますけど、その前にインディーといわれる小さなローカルの団体で回っている時があって、その時、本当に『レスラー』の世界があるんやと思ったんですね。年老いたベテランレスラーとか、ちゃんとそういう人もいるんですよ。

堀内

何年か前にアメリカにプロレスを観に行った時、「レッスルマニア・ウィーク」というのがあって、そこで『レッスルコン』という、コミケみたいなファンとの触れ合いイベントがあったんですが、そこには引退したレスラーもブースを出していて、僕も『レスラー』の世界が垣間見られたような気がしましたよ。

竹下

体はぼろぼろだけど、なんとか痛み止めを打って試合しているところとか観ると、自分は10年後、20年後どうなっているのかと考えさせられますよね。本当に切なすぎる映画でした。

駆け足で振り返る、プロレス映画史

プロレス映画史というと大袈裟だが、そこに燦然と輝く2本の傑作がある。一つは、ダーレン・アロノフスキーの『レスラー』。今は落ちぶれたかつての人気プロレスラーが、自らの人生や家族との絆を取り戻すべく、一度は引退を決意するも、命を賭して再びリングに上がる姿を描いた、プロレスファンなら誰もが魂を揺さぶられ号泣する映画だ。

『レスラー』
ミッキー・ロークが、満身創痍のベテランレスラーを演じる哀愁プロレス映画の極北。ストリッパー役にマリサ・トメイ。監督はダーレン・アロノフスキー。ヴェネチア国際映画祭金獅子賞受賞。'08米。

そして、その役を、かつて『ナインハーフ』などで一世を風靡したあとボクサーに転身し、それから俳優としてはずっと鳴かず飛ばずだったミッキー・ロークが演じたことも、2人の人生が重なるようでひたすら感動的なのだ。

もう一本が、ロバート・アルドリッチの遺作となった『カリフォルニア・ドールズ』。泥んこプロレスなどで、しがない地方回りの巡業を続けていた女子プロレスラーの2人組に、かつてないチャンスが巡ってくるのだが、ラストは、マニアも納得の激戦が繰り広げられる怒濤のチャンピオン戦へとなだれ込む、アルドリッチらしい高揚感に満ちた傑作活劇だ。

『カリフォルニア・ドールズ』
地方回りの2人組の女子プロレスラーを描いたプロレス映画の金字塔。マネージャー役に、あの「刑事コロンボ」ことピーター・フォーク。豪放な活劇で知られるロバート・アルドリッチ監督の遺作となった。'81米。

一方、珍作という意味では、ジャック・ブラックがメキシコスタイルの覆面レスラーを演じた、ジャレッド・ヘスの報復絶倒のコメディ映画『ナチョ・リブレ 覆面の神様』も、ルチャ・リブレ・ファンにはたまらないだろう。

『ナチョ・リブレ 覆面の神様』
メキシコのルチャ・リブレに憧れる、ジャック・ブラック演じる修道僧が、孤児たちを助けるために覆面レスラーになるという抱腹絶倒プロレス映画。監督は『ナポレオン・ダイナマイト』のジャレッド・ヘス。'06米。

ちょっと変化球だが、『ザ・ピーナッツバター・ファルコン』もオススメだ。ダウン症の青年が、子供の頃からの夢だったプロレスラーになる夢を叶えるべく養護施設から抜け出し、まるでトム・ソーヤーのような旅をする、ロードムービーとしても出色のインディー映画なのだ。

『ザ・ピーナッツバター・ファルコン』
ダウン症の青年が、憧れのプロレスラーを目指す旅に、ひょんなことから同行する漁師役にシャイア・ラブーフ、施設の看護師役にダコタ・ジョンソン。監督は、タイラー・ニルソン&マイケル・シュワルツ。'19米。