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妄想書店。私が本屋を始めるなら。Vol.5:〈Bar werk〉バーテンダー・成田玄太

小規模書店を開業できる新しい仕組み〈HONYAL〉が見据えるのは、個性豊かな本屋がちまたに溢れた未来。読書を愛するクリエイターたちなら、どんなユニークな店を開くのか。自由に妄想してもらった。

Illustration: Ayumi Takahashi / text: Emi Fukushima

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本屋の廃業が相次ぎ、活字離れが叫ばれる昨今。メディアの多様化やネット型書店の定着のみならず、新規開業のハードルの高さもその一因になっているのだとか。出版流通大手のトーハンが運用を始めたのが、新しい本屋開業パッケージ〈HONYAL〉。初期コストを最小限に抑え、在庫数百冊程度からコンパクトに始められるこの仕組みを使えば、自由な発想で本屋を開業する未来も格段に広がりそうだ。

東京・神宮前の〈Bar werk〉を手がけ、バーテンダーとして日々店に立つのが成田玄太さん。これまでにカフェやバーなどの場作りに携わってきた傍ら、読書を日課とするほど本と縁が深い彼は、どんな本屋を妄想するだろう。

ギャラリーを思わす空間で、“ルーツ”や“本質”と対峙する

店主 成田玄太

書店名 BOOK BOX

ミニマルな空間に少数精鋭の本を並べる、ギャラリーのような本屋を思い浮かべました。今の時代、ピンポイントな情報はネットを通じて容易に得ることができますが、その背景や文脈まで見渡せたり、そこから興味が広がる可能性を秘めたりしているのは本ならではです。

純粋に本そのものからワクワクしてもらえるように、あえて装飾的な要素を排したシンプルな空間にできればと考えました。イメージするのは、ガラス張りの扉を開けると、キューブ形の空間にポツンとレジカウンターだけが置かれていて、壁に埋め込まれた棚を引き出して本を閲覧していく造り。

僕はバーテンダーなのでお酒を提供することも頭によぎりましたが、そこはぐっと我慢(笑)。居心地をよくするよりも、若干の緊張感を与える空間にする方が、かえって一冊ごとの魅力が際立つのではと考えました。

お店の名前は〈BOOK BOX〉に。空間そのものが一つの本箱のようでもあるし、“箱”という言葉におもちゃ箱や宝箱のようにどこか高揚感をもたらすニュアンスも含まれている。キャッチーさも相まって、ピンときました。

若者にこそ、足を運んでほしい

扱う本のジャンルは投資、ファッション、食の3つ。いずれも個人的な興味に起因していますが、トレンドやハウツーではなく、各ジャンルのルーツに肉薄し、本質的な気づきを与えてくれるものを並べられたらと思っています。

まずは「投資」。お金は話題自体タブーとされる風潮がありますが、生活に直結する重要なテーマですよね。投資哲学の基本を伝える名著『ウォール街のランダム・ウォーカー』や『敗者のゲーム』など、わかりやすく学べる本を揃えたいです。

「ファッション」では、18~19世紀の実在の人物ジョージ・ブランメルの人生を追った『ブランメル閣下の華麗なダンディ術』が思い浮かびます。彼は“ナポレオンになるよりもブランメルになりたい”との言葉が生まれたほど当時の社交界に影響を与えた洒落者。メンズファッションの原点はもちろん、平民出身ながらセンスだけで成り上がった点から、生き方への示唆も与えてくれます。

「食」で外せないのは、『料理の科学』シリーズ。“白砂糖は体に悪いのか”“パスタをゆでるときに塩はいつ入れるか”などの素朴な疑問に答えたもので、食の仕事に携わるうえで基本の大切さを実感させてくれた本です。イタリアの実在のバーを描いた『ハリーズ・バー 世界でいちばん愛されている伝説的なバーの物語』もいいですね。酒場のマナーを楽しく学べます。

これらはどれも、僕が10代~20代前半の頃に読んでおきたかった本なので、〈BOOK BOX〉もぜひ若い人に来てほしいです。出店地は学生も多い御茶ノ水に。店構えは少々入りにくいかもしれませんが(笑)、背伸びをしてでも足を踏み入れてもらえたら。

さまざまな形で各ジャンルのルーツや本質が綴られた本を読んでいると、異なる本でもどこかしら繫がりがあることに気づかされます。投資から生き方を学ぶこともあるし、装いから食のマナーを知ることもある。バラバラな知識を受け取っているようで、歯車が嚙み合う瞬間があるんです。こうした体験は本ならでは。〈BOOK BOX〉で多くの人に味わってもらいたいです。

空間を“本箱”に見立てた店内。壁から引き出す棚に本は面出しで並び、一冊一冊が際立つスタイル。ジャンルはそのまま、ラインナップは毎月替わる。

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