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妄想書店。私が本屋を始めるなら。Vol.2:映像ディレクター・上出遼平

小規模書店を開業できる新しい仕組み〈HONYAL〉が見据えるのは、個性豊かな本屋がちまたに溢れた未来。読書を愛するクリエイターたちなら、どんなユニークなお店を開くのか。自由に妄想してもらった。

Illustration: Ayumi Takahashi / text: Emi Fukushima

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本屋の廃業が相次ぎ、活字離れが叫ばれる昨今。メディアの多様化やネット型書店の定着のみならず、新規開業のハードルの高さもその一因になっているのだとか。出版流通大手のトーハンが運用を始めたのが、新しい本屋開業パッケージ〈HONYAL〉。初期コストを最小限に抑え、在庫数百冊程度からコンパクトに始められるこの仕組みを使えば、自由な発想で本屋を開業する未来も開けそうだ。

世界の危険地帯で生きる人々の“食”にカメラを向ける番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート』を筆頭に、多くの斬新な企画を世に出すフリーディレクターの上出遼平さんの頭の中には、どんな本屋が思い浮かぶのだろうか。

誰かの日常に救いを与えられる、犯罪本専門店を

店主 上出遼平

書店名 犯罪書店

僕が始めるなら、犯罪にまつわる本ばかりを並べた本屋がいいですね。名前はストレートに〈犯罪書店〉で。一見すごくニッチなジャンルの本が集まるように思われるかもしれませんが、サスペンスやミステリーもその多くは犯罪を起点にしているし、ノンフィクションの作品にも、詐欺や殺人など実際に起きた事件について掘り下げたものが多い。

考えてみれば、『ルパン三世』だって泥棒が主人公。実は世の中は、犯罪関連の本で溢れていると思うんです。それらはどれも、最終的には自分が不利益を被ることを理解しながらも、世の中の決められたルールの外側にはみ出さざるを得なくなった人たちの物語です。

誰しもが社会の中で大なり小なり自分を制限して生きる中で、登場人物たちが本来の自分のどうしようもない欲求を解放していくさまが、淡い憧れにも似た感情を刺激するんじゃないかなと。

僕自身が興味があるのはもちろん、多くの人を惹きつける題材だとも思うので、フィクションにノンフィクション、実際にあった事件の裁判例集、『チャンプロード』のような暴走族雑誌のアーカイブまで、ありとあらゆる本を並べた場を作りたいです。

夜通し過ごせる、みんなの居場所に

この書店を開くなら、場所は都心の繁華街の一角で。入口には番犬が待ち構え、昔の牢獄を思わすような鉄のかんぬき錠が付いた重厚な扉を開けると開放感のある空間にあまたの本がずらりと並ぶ。そんなエンタメ的にも面白い場所が理想です。

日中は幅広い人に楽しんでもらいたいなと思う一方で、夜通し開けておいて、深夜には、なんとなく居場所のない若者たちが時間を潰せるような場所にもなればとも。あったかい豚汁もサービスして(笑)、彼らが安心できる空間にしたいですね。カラオケや漫画喫茶に駆け込む代わりに、本屋で夜を明かせたら、すごく豊かだと思いませんか。

というのも、本屋はいろんな世界への扉がそこら中に散らばってる場所で、ましてや犯罪にまつわる物語は、どうしようもないやつらがスターになれる世界でもある。例えば、僕が最近読んだ吉村昭の『破獄』では、戦時中に何度も脱獄に成功した実在の男が主人公だったし、作家のジャン・ジュネは、泥棒をしながら各地を放浪した自身の半生を『泥棒日記』にまとめました。

自分が置かれている環境や行く末に鬱屈とした気持ちを抱えている若者がいたとして、暇つぶしに立ち寄った本屋で出会った本の中から、可能性を見つけたり、自分と同じような境遇で生きる物語の主人公や書き手に共感を寄せたりすることで、救いを得られることがあると思うんです。さらには彼らのあり余る情熱が、本を書くことにも向いたらそれはそれで面白い。

いずれは〈犯罪書店〉をきっかけに新しい作家が生まれて、100年後には文学の聖地として歴史に名を残しているかも……と妄想も一層はかどります(笑)。

リアルな書店へ赴くことは、一番身近な旅。今やインターネット上のあらゆるアルゴリズムに取り囲まれる僕たちの生活において、自分の世界を広げる唯一の方法が物理的に本と対面することだと思うんです。だからこそ、単なる本を売る場所にとどまらず、あらゆる出会いときっかけを促せる書店をいつか作ってみたいですね。

中にいる人が安心感を感じられるようながっしりとした構えの〈犯罪書店〉。犯罪本のみならず、犯罪映画が観られる視聴覚ルームも設けたいとのこと。

妄想書店。私が本屋を始めるなら。Vol.1:ミュージシャン・曽我部恵一

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