初めて若尾祐基さんに会ったのは今から10年前。青山のホンダ本社ビルで行われた「カフェカブミーティング」だった。新旧純正カスタムと様々なカブが400台近く、それも青山のど真ん中に集まる、カブ乗りなら誰もが参加したい一大イベント。あのとき若尾さんが乗ってきたチョッパーカブのことは、今でも鮮烈に印象に残っている。そして、カブ熱は今も健在だった。
「当時から拠点を何度か移転し、ようやく今のお店兼ファクトリーに落ち着きました。ウチのカスタムは外注に頼らず、ベースの車体集めから分解、溶接、塗装まで、すべてここで行っています。ただし販売に関しては、SNSで見ていただいたお客様と電話やネットのやり取りも多くて、一度も現車を見ないで購入する人もいますね」
さらに、普通自動車免許で乗れる50ccは、オートバイ初心者のお客さんも多いんだとか。そもそも、若尾さんがカブにハマったきっかけが何だったのかを聞いてみた。
物作りを突き詰める性格が
バイクのカスタムにも
「高校生のころからモノ作りが好きで、当時は映画監督になりたかったんですよ。京都造形芸術大学に進学し、そこでカブと出合いました。ボロボロでお世辞にも調子がいいとはいえない個体。でも、このカブに乗った経験が、“バイクは常に完調でなければいけない”という当たり前のことを教えてくれたんだと思います。
どんなに改造してもちゃんと走らなくてはダメ。だから今だって、カスタムする部品も純正部品を流用したり。エンジンの排気量アップも出来合いの輸入エンジンに乗せ換えるのではなく、国内の信頼できるメーカーのアフターパーツを使用して組み上げています。ちなみに大学時代の初めてのカブ、今でも大事に保管してありますよ(笑)」
カスタムビルダーとしての強いこだわりを持ちながらも、ベース車両探しから販売までのすべてをこなしているのがすごい。しかし、驚かされるのがその年間の車両出荷台数。
「今は年間60台ペースで車両製作を行っています。新車でいうところのスタンダードモデルみたいなモノが何タイプかあって、そこからお客さんの好みに合わせて仕上げていきます。その他にも、一からイメージを伝えてもらう、魔改造的なカブのオーダーも年に何台かは入ります」
個人のショップとしては驚異的な数字だ。そこで、若尾さんの今後の野望についても聞いてみた。
今後はハンターカブにも挑戦
新しいカスタムに期待したい
「まずは抱えているオーダーをきっちりと作り込んでいくことが最優先。そのうえで、今新しく考えているカスタムは、CT125をベースにしたキャンプスタイルのハンターカブ。
実は自分がキャンプをやらないうえに、ベースとなるハンターカブが入手困難。誰かベース車を譲ってくれないですかね(笑)。だけど、この逆境こそが次へのステップの足がかり。根っからの負けず嫌いの精神を発揮して、また面白いカスタムを誕生させますので、期待してお待ちください」