人気ポッドキャスト『奇奇怪怪明解事典』の
2人が考えた歌謡曲と時代
TaiTan
「歌謡曲」というテーマで、僕が選んだのはこの3冊ということで。
まず『イントロの法則80's』から始めていいかい?
玉置周啓
どうぞ。
TaiTan
この本では、歌謡曲全盛の80年代は「ハッタリの時代だった」と書いている。どういうことかというと、当時の歌謡曲はイントロで人の心をつかもうとする企みの競い合いだった、と。
玉置
そう聞くと、今っぽいね。イントロの15秒で飽きられたら終わりのゲームだもんね。
TaiTan
そう。80年代の音楽って、極めて今に近いんですよ。意味や文脈よりも、気持ち良さが人々に求められていた。つまりTikTok的なセンスに近いんだよね。
玉置
否定的な意味じゃなくて、TikTokもハッタリだもんね。
TaiTan
実はこの「ハッタリの時代」って、俺はいいことだと思っていて。韓国の若者が、TikTokを使ってトランプの集会のチケットを架空で買いまくったっていう話があるじゃない。
その是非はともかく、SNSで政治の議論をするよりも、そういう軽やかな知性の方が世の中へのアプローチとして有効なんじゃないかという気がするんだよね。
玉置
音楽でいうと、ファレル・ウィリアムスの「Happy」も気持ち良いメロディが世界的なヒットにつながったけど、その裏にはマイノリティの文化を守ろうっていうメッセージがあるしね。
「意味」か「気持ち良さ」の2択じゃなくて、それが混ざった新しいオルタナティブが生まれる可能性があるのは、確かに希望かもしれない。
TaiTan
その話を『平成のヒット曲』になぞらえて話すと、僕は平成を「夢と怒りの時代」だったと思っているんだよ。夢や社会正義を掲げて人々を動員するだけの空虚な時代だった。
でも令和になり、2020年代に入ると、知的な態度としてTikTok的な軽やかさが採用されるようになった。
玉置
今はメッセージを発したい作り手側にとってはいい状況だよね。政治的なメッセージも、軽やかに伝えることができる。
TaiTan
音楽の話をすると、平成で売れた曲の1位が「世界に一つだけの花」で、2位が「TSUNAMI」。それで3位が、米津玄師の「Lemon」らしいんだよ。
平成の30年の間にCDの時代が絶頂を迎えてその後没落していったけど、最後の最後にボカロP出身のミュージシャンが台頭した。
玉置
ボカロって、昔はちょっと聴くのが恥ずかしかったよね。
TaiTan
そうだったじゃん。それが今や、日本の音楽のど真ん中のジャンルになった。
玉置
実はボカロで使われてる和音階って、80年代の歌謡曲にも通じるものがあるしね。
和音階って「気持ち良さ」と相性がいい。日本人が好きな音階を再利用して、ウケてるのかなって思う。
TaiTan
その話もこの『筒美京平 大ヒットメーカーの秘密』につながるわけだ。筒美京平は70〜80年代にかけてシングルを7000万枚以上売った人。その時代を終わらせたのが小室哲哉だった、と。
この本ではそれを「工房の時代から工場の時代になった」と指摘しているんだよね。
一人の天才作曲家の時代は翳りを見せて、システムが世の中を回すようになった。でも今はまた「工房の時代」が復権していると思うんだ。
玉置
ボカロPはまさにそうだけど、10万円あれば誰もが音楽機材を揃えられる時代だからね。
筒美京平のような天才が、いろんなところから出てくる可能性がある。
TaiTan
今、周啓くんが言ったことってすごく希望があると思っていて。軽やかな知性を持った人間が、集団の動員によって潰されてしまう時代が確かにあった。
でも2020年代は、才能のある個人が世の中へ軽やかにアプローチできるという時代になったらいいな、と思った3冊でした。