高円寺の商店街を抜けると現れる店には、新しいものと古いもの、器と洋服、日本のものと海外のもの、すべてがジャンルレスに並んでいる。壁面の棚には、日本各地の焼き物にイタリアのヴィンテージガラス、「KOENJI」とロゴの入ったオリジナルTシャツも大人気だ。
「ジャンルを超えたもの選びの最初は、1994年に始めたレーベル〈ビームスモダンリビング〉です。イッタラの器、マリメッコの服、アアルトの家具など、北欧をテーマに現行品とヴィンテージの両方を扱っていました。普遍的な美しさのある良いものだと確信していたけれど、びっくりするほど売れなかった。洋服屋で家具を売ることも、新旧のものを並べることも、30年前は異端なことだったのかもしれません」と北村さん。
やがて〈日本民藝館〉館長(当時)の柳宗理と出会った2人は、民芸の面白さに気づく。
「柳さんのお父様の宗悦さんや、芹沢銈介、濱田庄司といった方々が、世界中の民芸品や家具を蒐集(しゅうしゅう)し、日本のものと並べて暮らしていた。こんなに素敵な人たちのことを、もっと広めたいと思ったんです」
2人はビームスの新たなブランドとして、北欧の手仕事や日本の民芸を紹介する〈フェニカ〉を立ち上げる。新しいものもヴィンテージも同じ目線で扱うショップの先駆けだ。
自分の手で確かめてこそ好きなものに辿り着ける
「高円寺は本気の洋服好きが集まる町。彼らは世の中の評価とは別の審美眼で、ものを選べると思うんです」
新しい店をこの町に開いた理由を、エリスさんはそう話す。
「ここにあるのは、他人の評価や流行とは関係なく、僕たちが絶対に良いと思ったものだけ。器も全部、実際に窯元まで行って選んでいます」
その言葉通り、常に大事にしてきたのは、作り手と信頼関係を築くこと。歴史を重ねてきた2人だからできる“別注”も、店の特徴だろう。
「私たちが集めた古いものや作り手が途絶えてしまったものを、今の作り手に見てもらい、新しい創作の相談をすることもあります。ルーシー・リーの作品をヒントに、大分の小鹿田焼の窯元でポットを作ってもらったりもしたんですよ」(北村さん)
店に行けばいつも2人がいるから、こういう、ものの背景に広がる物語を聞くことだってできる。今やネットショップには膨大な情報、例えば器の重さまで記されているけれど、「自分で持って感じる重みや、手と器の相性みたいなものは、大皿が何百gという情報では伝わらない。実物を見て触って選ぶことを繰り返してこそ感覚が磨かれ、好きなものに辿り着けるんです。私たちも同じ。“次は何が売れそうか”という視点で選ぶことはないし、売れなければ自分たちの責任です」(北村さん)。
それだけは変わらないと言い切る2人。だからこそ、信頼できるのだ。
SELLING POINTS
● 店主は「時も国も超えるもの選び」のパイオニア。
● ものの背景にある文化やストーリーを聞く楽しみがある。
● 現代作家への別注による挑戦的なもの作りや復刻も。