Read

Read

読む

つかれたら夜に逃げ込めばいい。睡眠導入エッセイ『明けないで夜』刊行記念。燃え殻インタビュー

J-WAVE「BEFORE DAWN」との連動企画。小説家でエッセイストの燃え殻が綴る夜の周辺「明けないで夜」が本になりました。刊行記念著者インタビューをお届けします。

text: BRUTUS

連載一覧へ

J-WAVE「BEFORE DAWN」という番組の中で朗読をしていて、せっかくならオリジナルを書き下ろしでやってみようと、半年くらいの間、朗読とエッセイの連載を続けてきました。そこで朗読したすべてのエッセイと、他で連載していたものや、映画のパンフレットや様々な雑誌などに寄稿したコラムなども入れ込んで、このたび一冊にまとまりました。

燃え殻の連載 明けないで夜
BRUTUS.jpでの連載「明けないで夜」。

寝る前にエッセイを読むのが僕自身好きなんです。松尾スズキさんのエッセイや、さくらももこさんの『もものかんづめ』なども、寝る前に読むものとして理想的で、すごい好きですね。ちょっと面白いけど、「ガハハ」ではない、「ハハハ」くらい。感情が激しくハイにもローにもならない一篇を読むと寝心地がいいんですよ。今回、自分でもそういうものを書いてみようと思いました。睡眠導入剤ではないのですが、睡眠導入エッセイというか。「鎮静するなあ」という読後感にしたくて。

子供の頃はカセットテープでしたが、朗読のテープを図書館で借りて岸田今日子さんの「風の又三郎」とかをよく聴いてました。今はCDになってるはずです。ゆっくり語りかけてくるみたいな感じで、落ち着くんですよ。風の音とか効果音も入っていて。静かな語り口の朗読を聴きながら眠るって、僕はすごく好きです。

深夜、「明日来ないで……」って思うこともあるじゃないですか。そういうときに傍に何度も読んだ本があったり、朗読があったりすると、だんだん鎮静していく。

夜って逃げ込むのにいい場所なんです。人間関係も最低限だし、街の灯りも最低限だし、車の量も少ない。気持ちが落ち着いてくるんです。夜の方が息がしやすかったり、呼吸が深くできる人って少なからずいて、僕自身そうでした。昼間を得意とする人もいるけど、夜が向いている人もいると思うんです。そういう人は夜をもっと利用してほしい。夜をやり過ごして明日また頑張らなきゃと思うより、夜に棲み着くというか、夜を主戦場にしてもいいと思うんですよね。

それぞれ自分の習性みたいなものがあるはずなんです。世間一般的には正解だけど、自分にとっては正しくないということもある気がします。自分にとって住みやすい時間、場所、職業を見つけることが大切。なんとか長く続けるためには、できるかぎり無理しないことです。落ち着く場所、落ち着く仕事、落ち着く人との距離。そういうものは生きていく上で夢や希望を探すよりも、ずっと大切なことだと思います。

夜寝ることも重要なので、寝るまでの手順とか、落ち着くための方法はたくさんある方がいいと思います。僕は何度も読んでいる、さくらももこさんのエッセイをいつも傍に置いてるし、大槻ケンヂさんの本を繰り返し読みます。古典落語みたいに。内容は全部知っているけど、いつもそこにある物語は安心を貰えます。今回のエッセイ集、『明けないで夜』もそういう一冊になれば嬉しいですね。

燃え殻さんの書籍『明けないで夜』

連載一覧へ