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ロンドン発、実験音楽とパフォーミング・アーツのフェス〈MODE 2023 TOKYO〉で未体験の音を浴びる

先日、日本でも類を見ないジャンル・規模の音楽フェスが盛況のうちに幕を閉じた。難解とも思われがちな実験的な音の洪水に身を浸せば、新しい発見が待っている。美術館でアートに触れるように、心の琴線に触れる音を探す旅のすすめ。

photo: Yuichiro Noda / text: Kenichi Aono

わかりやすさと出合いの限界というふたつの側面

インターネットを介した検索、閲覧、視聴、購入の履歴をもとに予測や提案が導き出されるアルゴリズムは、自身の趣味嗜好に近い物事を見つけたり掘り下げたりするのには大変都合がいい一方で、偶発的な出合いがあまり期待できないのはご存じのとおり。こと音楽においては、サブスクリプション・サービスが浸透したおかげで、それまで聴いてきたものとまったく毛色の異なる作品やアーティストに触れるきっかけが減っているといえるのではないだろうか。楽曲がジャンルという箱に閉じ込められていることによって、わかりやすさと出合いの限界というふたつの側面が生じてしまうのである。

Merzbowのステージからイメージカットとして
渋谷〈WWW〉にて行われたMerzbowとスティーブン・オマリーのパフォーマンス。多くの観客が思い思いの聴き方で楽しんでいた。写真は演奏を終えたスティーブン・オマリー。

ポピュラー・ミュージックという大きな括りのなかでさえ前述のようなことが起こってしまうのだから「実験音楽」や「前衛音楽」などと称される音楽に触れるチャンスはあまり多くはないだろう。そもそもそんな音楽が存在することすら知られていないかもしれない。しかし知ることができれば、そこから好きな楽曲やアーティストを「発見」できる可能性があるわけで、そうすればより豊かなリスニング体験を得られるのではないだろうか。

ただただ音に身を任せたあとに訪れる清々しさ

5月25日から6月2日の期間、東京で開催された〈MODE 2023 TOKYO〉は、2018年より実験音楽、オーディオ・ビジュアル、パフォーミング・アーツを紹介するイベントとしてロンドンでスタートした〈MODE〉の2023年エディション。主宰はロンドンを拠点とする音楽レーベル/イベント・プロダクションの〈33-33(サーティースリー・サーティースリー)〉で、2018年の第1回はこの3月に惜しくも亡くなられた坂本龍一がキュレーションを担当したことでも話題になった。

今回の〈MODE 2023 TOKYO〉は〈33-33〉と実験的なアート、音楽のプロジェクトを展開するキュレトリアル・コレクティブ〈BLISS〉との共同企画で先鋭的なプログラムを編んだ。

この〈MODE 2023 TOKYO〉で筆者が体験したのは渋谷〈WWW〉で行われた秋田昌美によるMerzbowと、ドゥーム・メタル・バンド〈Sunn O)))〉の一員でもあるアメリカ出身のギタリスト、スティーブン・オマリーが出演する回。

日本が誇るノイズ演奏家Merzbowの放つ飽和し歪んだ爆音ノイズは皮膚や内臓を震わせ、意識を普段とは異なる場所に運んでくれる。圧倒的な音響の圧のなかから自分の好きな音を聴き分けてゆく––––オーケストラの響きのなかに好きなフレーズを探すような––––のも楽しい試みだった。

Merzbow
Merzbowのパフォーマンスでは飽和し歪んだ爆音ノイズに加えてストロボの激しい明滅が意識を非日常へといざなってくれた。派手な動きのない演奏スタイルとの対比も面白い。

スティーブン・オマリーは映像を交えたパフォーマンスを披露。詩情豊かなギターのレイヤーがやがて音の坩堝となってゆくのはあたかも滝行のようであった。ただただ音に身をまかせるという音楽体験のあとは、心地よい疲労感と不思議に清々しい気持ちが訪れたのをよく覚えている。

スティーブン・オマリー
モノクロームの映像を交えたスティーブン・オマリーのステージ。折り重なるギターのフレーズにより刻々と変化する音世界をムービーとともに味わうことができた。

ギャラリーや美術館に足を運ぶ感覚で好みの音を探す

多くの人にとってこうした先鋭的な音楽との接点を持つ機会はあまりないのかもしれないが、一度覗いてみると作家の個性の多様さ、表現の面白さに惹きつけられるように思う。あまり難しく考えず、ふらっと現代美術のギャラリーや美術館に足を運ぶ感覚でいろいろ聴いて、好みのアーティスト、作品を見つけてみてはいかがだろうか。

「どこを入り口にするのがいいのか」という方には、たとえば〈MODE〉の初回キュレーターも務めた坂本龍一の『async』や『12』といった晩年のアルバムを起点にしてみることをおすすめしたい。ポピュラー・ミュージックのフィールドでも活躍した教授の実験的作品ならすんなり耳に入ってくるのではないだろうか。

刺激的なプログラムが満載のこの〈MODE TOKYO〉がまた来年も開催されることを期待つつ、次回はこれを読んでいる人たちにもぜひ体感してもらいたい。