『Maria Muldaur』Maria Muldaur(1973年)
〈cheers pb〉は真夜中前の
オアシスですが。
もうすぐ80歳に手が届こうかというマリア・マルダーですが、現在も精力的にライヴ活動を行い、数年前まではほぼ1年に1作のペースでアルバムを発表していて、この5月にも新作を発表したばかりです。ニュー・オーリンズを拠点に活動するストリート・ジャズ・バンド〈チューバ・スキニー〉との共演で、『Let's Get Happy Together』。若い頃の高音こそ聞けませんが、チャーミングさは相変わらず。情感を増した渋めのハスキー・ヴォイスで楽しませてくれています。
そんなマリア・マルダーのソロ・デビュー作は1973年。当時最もカッコいいレーベルだったリプリーズから発表されました。そのとき彼女はすでに30歳になろうとしていましたが、でも彼女はティーネイジャーの頃からグレニッヂ・ヴィレッジで歌っていたし、ジャグ・バンドでデビューもしていたので、遅咲き感はなかったのだろうと思います。
そして、彼女のキュートでちょっと風変わりな響きを持った歌声は多くのファンを魅了し、マリア・マルダーの存在を一躍全国区に押し上げました。同じ時期に話題になりだしたボニー・レイトと同様にマリアは自分では作曲せず、優れたソングライターたちの作品を独特の解釈で歌うことで、評判になりました。
ちなみにシングル・カットされた「Midnight At The Oasis」を作曲したデイヴィッド・ニクターンはこれ以外のヒット曲がありませんが、この一曲だけでも印税の収入はバカにならないもののはずです。
このアルバムには、当時のLAのロック・シーンの重要人物が数多く関わっています。ちょっと挙げても、ミュージシャンではライ・クーダー、エイモス・ギャレット、デイヴィッド・リンドリー、ドクター・ジョン、ジム・ケルトナーなど。
そしてプロデューサーとしては、後にワーナー・ブラザーズ・レコードの社長にまでなるレニー・ワロンカと、ジム・クウェスキン時代からの旧友でイギリスのフォーク・ロック界の大物だったジョー・ボイド。
演奏者、ソングライター、制作陣の各方面で恵まれ、多くの愛情でまとめられた名盤です。
side A-2:「Midnight At The Oasis」
邦題は、「真夜中のオアシス」。マリア・マルダーの個性的な歌声が耳に心地よい、〈cheers pb〉の夏には欠かせない一曲です。エイモス・ギャレットの個性的なギター・ソロも印象的な名曲で、ビルボード・ポップ・チャートで6位を記録した、マリア・マルダー最大のヒット曲でもあります。