不殺生の聖人に由来するうちわ
奈良の唐招提寺といえば、多くの苦難を乗り越えて来日を果たした鑑真和上の開いた寺院。南都六宗の一つである律宗の総本山です。そんな唐招提寺で毎年5月19日の『中興忌梵網会(ちゅうこうきぼんもうえ)』に行われる「うちわまき」は、鎌倉時代の高僧・覚盛上人の遺徳を偲(しの)ぶ伝統行事です。
覚盛上人は不殺生の戒律を厳守し、蚊を殺そうとした弟子を戒めた、という故事にちなんでおり、上人の亡くなった後、蚊を払うための宝扇を供えたのが始まりといわれています。
![宝扇](https://media.brutus.jp/wp-content/uploads/2025/01/9-2.jpg)
僧侶たちによって作られたハート形の宝扇は、国宝の鼓楼からまかれ、参拝客が競うように手を伸ばして受け止めます。まかれた宝扇を取れなくてもご安心を。唐招提寺売店にて通年授与もされています。宝扇には「千手観音」や「烏枢沙摩(うすさま)明王」の真言が書かれ、魔除けや病気平癒の御利益があると信じられています。
![かつてのうちわまきの様子を描いた絵馬](https://media.brutus.jp/wp-content/uploads/2025/01/1-21.jpg)