基本を知って、もっと自由に。
岩木みさき
味噌は呼び方一つとっても、地域名や麹の種類、甘辛、色などさまざまなので、わかりづらいところがありますよね。しかも、白味噌だから甘いかと思えば、辛いものもあって、それこそ蔵の数だけ味がある。
高谷謙一
日本酒の世界と一緒で、例外が多いから、“この味噌はこういう味だから、こういうだしや具が合う”と系統立てしづらいんですよね。
岩木
だから、どうしても定番の具や組み合わせにとらわれがち。でも、実は味噌汁に合う素材って、とっても多いんですよ。
高谷
味噌の大まかな味の違いと、味噌汁への持っていき方がわかると、バリエーションが広げやすいかもしれないですね。
岩木
どの味噌も原料は大豆。発酵させる麹の違いで、米、麦、豆という種類があって、その麹と塩の割合、発酵・熟成期間で味が変わってきます。麹の割合が高ければ甘くなるし、熟成期間が長ければ色が濃く、旨味も強くなる。
高谷
だいたいの傾向は、色が薄いと、甘味があってあっさり。濃いと、塩気も旨味も強い。
岩木
そこに麦なら香ばしさや甘さ、豆なら大豆特有のコクといった、麹の個性が加わってくる感じでしょうか。高谷さん、味噌汁のだしはどうしていますか?
高谷
だしはあった方がおいしいと思うので、昆布をベースに、味噌によって煮干しを足したり、追いガツオをしたり……。
岩木
私も基本は昆布で、白味噌などは昆布だけ。味噌の色が濃く、旨味が強くなるにつれて、煮干しやカツオ節など魚系を加えて、だしにもボリュームを持たせ、バランスを取っていく感じですね。
高谷
味噌の味を楽しみたいのか、具を味わいたいのかによっても変わってきますよね。前者なら具を少なく、だしはしっかり効かせるし、具だくさんの時は、逆にだしは効かせない方が好きですね。
岩木
私も同じです。おいしさって、旨味だと思うので、味噌とだしと具で、どう旨味を足していくかをいつも考えています。旨味の強い味噌には、具も肉や魚などの旨味が強いものの方が、バランスがいいと思いますし。
POINT1:素材の下ごしらえ。
吸い口で香りを添えると、味噌汁が一気に豊かに!
高谷
だしが足りないなと思ったら、寝かせた本みりんや醤油で補うこともあります。あと、切り干し大根や干しシイタケなど、乾物の具を入れると、だしをそこまで効かせなくても、旨味が出ますね。
岩木
キノコはまさにそう。乾煎りして、水分を飛ばしてから具にした方が、断然おいしくなる。だし以外の旨味要素も考えるといいですね。例えば、貝なら酒蒸しにする、鶏なら皮目に焼き目をつける、ナスなら油をつけて焼く。そうすると、具として食べた時もおいしいと思いますよ。
高谷
豚汁の存在からもわかるように、味噌汁に油分が加わるのもありですよね。僕は、吸い口でオリーブオイルをちょっと入れることがあるんですけど、コクが出るだけでなく、香りで雰囲気が変わる。塩味と旨味で100点でも、そこに彩りとして香りが加わると、豊かさが出るんですよ。
岩木
本当にそう。吸い口は、もっともっと活用してほしい。夏ならミョウガ、冬ならユズ皮と、同じ豆腐の味噌汁でも、吸い口を替えるだけで季節感が出ますし、途中で入れて、表情をガラッと変えることもできる。実は、麦味噌には、バジルが合うんですよ。
高谷
あ、すごく合いそう!麦味噌には香ばしさがあるので。
岩木
かと思えば、豆味噌の味噌汁に、リンゴを入れて、シナモンを振ってもおいしい。
高谷
それ、わかります。ドライフルーツと豆味噌を合わせて、お酒のアテにする人もいますから。
岩木
せっかく、これだけいろいろな食材が手に入る時代なので、味噌も具も吸い口も、固定観念を捨てて試してみると、世界が広がると思います。例えば、白味噌。冬のものだと思いがちですけど、具や吸い口を工夫すると、夏でもおいしく食べられるんですよ。
高谷
僕も、夏は熟成が浅めの、あっさりした味噌が好きですね。それから、牛丼屋に行くと、味噌汁が濃いので、お茶で割るんですけど、実際、鹿児島にそれに近い茶節というのがあるらしくて……。
岩木
兵庫にはそうめんの節を入れたばち汁がありますし、沖縄にはソテツの実の粉末でとろみをつけた味噌汁もありましたよ。
高谷
僕の出身地の青森にも、山菜や根菜が入るけの汁がありますけど、郷土料理なんて、すごく自由ですものね。合わせ方がわからなかったら、同じ地域のもの同士を合わせてみるとか。海に近い酒蔵の日本酒なら、魚介が合いそうな気がするじゃないですか。
岩木
料理から発想すると意外に失敗しないですよ。例えば、牛丼をヒントに、牛肉とタマネギと豆味噌を合わせてみたり……。次のページで合わせ方の基本を紹介したので、これを参考に、もっと味噌汁を遊んでほしいですね。
POINT2:味噌の味を決めるもの。
□ 麹による違い(風味)
原料である大豆を発酵させる麹には、主に米麹、麦麹、豆麹があり、風味に特徴が出る。
□ 熟成期間による違い(旨味)
発酵・熟成期間は2週間~3年以上と幅があり、長くなるほど色濃く、旨味が強くなる。
□ 塩と麹の割合による違い(甘辛)
大豆につける麹の割合が高いと甘く、塩分が高いと辛くなる。大抵は麹が多いと塩分低め。