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沖縄から秋田まで。5つの地元密着ミニシアター

シネコンにはない、町の映画館の良さを守り続ける人たちがいる。フィルム上映やイベントはもちろん、カフェ併設のシアターなど、個性もさまざま。北は秋田から南は沖縄まで、規模は小さくとも映画愛はでっかい、個人経営の映画館の魅力とは。

Photo: BOMB-GO, Ayumi Yamamoto, Fumihiko Sekiguchi, Masaharu Sakaue, Chotaro Oowan / Text: Yoshikazu Itamoto, Miho Inada, Hitoshi Itamoto

御成座(秋田・大館)

ひょんなキッカケから
気がつけば映画館主

自分の人生に映画館主という肩書が刻まれるであろうと思っている人は、あまりいない。現御成座館主の切替義典さんも同じだ。「もともと映画は好きでしたけど、まさかね」と苦笑いを浮かべる。千葉で建設業の仕事をしていた切替さんは、東日本大震災後、工事の増えていた秋田県大館に単身赴任を命ぜられる。

その後、自宅兼事務所を借りる必要があり、出会ったのが閉館していた御成座だった。引っ越しをしつつ、映画館の手直し(あくまで住むための)をし始めると「御成座また始まるの?」と通りがかりの人が声をかけてくる。そのたびに「いえ、ここは事務所で……」とやんわり否定した。しかし毎日言われ続けると、切替さんも「映画館をやった方がいいのか」と思うようになってくる。そして、映画館運営がどういうものか聞くだけ聞いてみようという気持ちから、大館市役所を訪ねる。

すると「御成座が復活する」という誤解が生まれ、遂には2014年夏に御成座オープン!そんなふうに話がまとまってしまう。実際に14年7月18日、御成座は多くの地元の人たちの協力により復活を遂げる。

「流れに乗って始めましたけど、地域の盛り上がりを見るとやってよかったなと思います。フィルムの映画を観たいと遠くからわざわざ来てくれるお客さんもいます」。御成座は今も、施設を少しずつグレードアップさせるなど日々進化している。切替さんは建設業との二足のわらじで頑張っている。

「シネコン全盛の時代ですがこういう映画館があってもいいのかなと。残念ながら自分好みの映画はなかなか上映できませんが(笑)」とアクション映画好きの切替さん。地元の人との強い絆を感じながら、今後も身の丈に合った運営を続けていくつもりだ。

御成座(秋田・大館) 外観
少しずつ修復を重ねた御成座。復活の際、大館市から譲り受けたスピーカー、アルテックA-7、A-5を使い、高音質での上映が楽しめる。
御成座(秋田・大館)
小学生時代から切替さんが集めたビデオライブラリー。現在も時々一人で上映して楽しんでいる。その数は実に800本に及ぶ。

シネマノヴェチェント(神奈川・戸部)

つまんない作品だって
酒の肴になるんだよ(笑)

「映画が好きで好きで、ずっと映画館と配給をやりたかった」と、館主の箕輪克彦さん。もともとは家業を継いでいたものの、2000年頃「今だ」と一念発起。名画座が次々と潰れ始めていた当時、大胆な決断だった。

当初はスペースを借りてイベント上映を行っていたが、「映画館って、映写機と場所さえあれば小規模でもできるよな」と気づく。16ミリと32ミリの映写機を手に入れ川崎市で始めたのが、シネマノヴェチェントの前身、シネマバー・ザ・グリソムギャングだ。

「それなりに賑わったんだけど、建物の取り壊しで畳むことになって。物件を探していた時、1軒だけ条件にぴったり合うものがあった。前の映写室は狭すぎて『パピヨン』のスティーヴ・マックイーンみたいな気持ちだったけど(笑)、そのへんも解決」。

2015年2月のオープンからもうすぐ2年。夢だった配給も手がけ、個性的なプログラムにも磨きがかかり、週末は監督や俳優を招いてのイベント上映で賑わっている。映画ファン垂涎の場としてじわじわと話題になり、栃木、静岡、名古屋など遠方から訪れる人も。

「やっぱり、フィルムで観るっていう体験を大事にしたい。とは言うものの、僕も最初は上映がへたで、途中でフィルムが切れたり、当時のお客さんには迷惑をかけたっけ……。あと、個人的に言いたいこととしては、つまんない映画をたくさん観てほしい!食い物と一緒で、まずいものも食わないと旨さがわからないでしょ?(笑)シネマバーにした理由の一つは、上映後の“つまんね~”を共有できる場が欲しかったから。そうやって100本のうち2~3本あるかわからない名作を探すうち、自分の物差しみたいなものができてくるんだと思う」

一目見ただけで映画愛が伝わってくる、賑やかな館内。ポスターを眺めているだけでも楽しくなってくる。
シネマノヴェチェント(神奈川・戸部) シネマシート
シネマシートは、2014年に閉館した吉祥寺のバウスシアターから引き継いだ歴史あるもの。全28席、「日本で一番小さいフィルム映画館」として賑わっている。

シアタードーナツ(沖縄・コザ)

沖縄産の映画も多数上映
県内唯一のカフェシアター

きっかけは、一本の沖縄産ホラー映画。2014年に公開された『ハイサイゾンビ』に製作者として関わった宮島真一さんは、せっかく作ったのになかなか観る機会がないことに気づいた。

「最初はカフェなどで上映会をやっていたんですけど、これがなかなか好評だったんです。じゃあそれなら映画館自体を作っちゃえ! ってことになりました」。

沖縄市の中心部にあたるコザは、那覇から北東へ向かっておよそ20㎞。一時期は駐留米軍による特需で賑わったこともあるが、昨今はシャッター街になってしまったという印象も強い。ラジオやテレビでMCをこなす宮島さんは、沖縄市の観光大使も務めているということもあり、シアターにはコザを元気にしたいという気持ちが込められている。

「あとは、県産映画を観られる場所にしたい。実は沖縄って大規模な映画祭もあるし、映画自体もたくさん作られているんですよ。でもイベントが終わってしまうと観る機会がない。映画は誰かに観られて完成するものだと思うんです」。

シアタードーナツは、もともと沖縄産映画の専門館として2015年4月にオープン。徐々に作品の幅を広げていった。最近では国内外の社会派ドキュメンタリーが充実しており、琉球大学の授業の一環で、そういった映画を観ると単位の一部がもらえるというユニークなコラボも行っている。しかし、なぜ「ドーナツ」なのか、ちょっと不思議に思うかもしれない。

「名前の通り、ドーナツが食べられる映画館です。カフェを併設することで気軽に来てもらえるようにしたくて。以前この近くにおいしいドーナツ屋さんがあったんですがなくなっちゃったので、うちで作ろう、と。あと、ドーナツってなんだか可愛くないですか(笑)」

沖縄 シアタードーナツ
宮島さんは街の有名人。撮影中も知り合いが何人も通り過ぎる。
シアタードーナツ(沖縄・コザ) パンフレット売り場
チラシやパンフなども多数用意。最近では本屋の出張販売なども行う。

シネマアミーゴ(神奈川・逗子)

逗子の老若男女に
愛される文化発信基地

映画とその周辺の文化を発信する基地として、逗子の子供からお年寄りにまで愛されているシネマアミーゴは映画を観ながら食事ができる「シネマカフェ」。ドキュメンタリーが豊富なラインナップで、映画の内容と関連したイベントも不定期で開催。

逗子海岸映画祭の主催者でもある館主の長島源さんが、2人の友人と2009年に立ち上げた。「映画、音楽、食、アートをミックスしたカルチャー空間を作りたかったんです」。1日5本の上映後はバータイムが始まる。

シネマアミーゴ(神奈川・逗子) 民家を改装している
民家を改装して造ったどこか懐かしい雰囲気の店内は、貸し切りのパーティやプライベート上映会、展示会等にも対応。

元町映画館(兵庫・元町)

日本一イベントの多いミニシアターは
商店街の一角に!

元町商店街の一角にあるミニシアターのオープンは2010年8月。「メジャー大作でない映画の魅力も知ってほしい」と映画好きのオーナーがスタッフを募集、普通の店舗物件を改装し映画館に!現在は年間およそ270~300本、朝から夜まで幅広いジャンルを上映。週末は作品の背景を解説するトークショーや監督との座談会、マルシェなど映画にちなんだイベントも、多い時は1日4回も開催。

「イベントに興味を持った人が映画好きに」というパターンもじわじわ増加中だ。

元町映画館(兵庫・元町) シアター
自分たちで天井のペンキを塗ったり、閉館する奈良の映画館から譲り受けたカーテンを壁面に張るなど、経費をかけずに手造り。