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京都の「余白のある店、余白のある人」。円町〈源湯〉

素晴らしい空間やサービスだって、提供する側にも受ける側にも気持ちにゆとりがないと楽しめない。私たちにほかでは得難い体験を与えてくれる名店の主たちはなおのことだろう。いま京都を代表する銭湯〈源湯〉の店主に聞いた、店のあり方と、“京都の余白”。

本記事は、BRUTUS「京都の余白。」(2025年10月1日発売)から特別公開中。詳しくはこちら

photo: Yosuke Tanaka / text: Yusuke Nakamura

継業された銭湯で「おばあちゃんの家」のようにくつろげる

全国的に減少傾向にある町の銭湯だが、京都市も例に漏れず。そんな中、清水五条の〈サウナの梅湯〉を2015年に継業し、人気銭湯に育てたのが湊三次郎さん。湊さん率いる〈ゆとなみ社〉は、京都を拠点に府内外で銭湯の継業を軸に活動し、現在市内では3つの銭湯を運営している。

19年には、1928年創業の〈源湯〉を継業した。暖簾(のれん)をくぐればシブい木製靴箱、番台。そして、かつての主一家の住居部分を開放した広い畳のくつろぎスペースは、湊さんいわく「おばあちゃんの家のような空間」。

継業時、全面改装しなかったのは経済的事情に加え「常連さんに違和感を与えないよう、今では出せない空気感を大切に引き継いでいきたかったから」(湊さん)。

聞けば、くつろぎスペースの利用法に1ドリンク制や2時間制などの案も出たという。が、「空間や時間に課金するのが当たり前の世の中でも、銭湯ではやりたくないな、と。いろんな人たちが気軽に来られる日常の場を、細く長く、京都の町に増やしていきたい」(湊さん)。

市内中心部に比べ、時間が緩やかに流れる町の〈源湯〉。地下から汲み上げる天然水を使用した湯に浸かり、おばあちゃんの家のように銭湯でくつろぐのもまた、この町ならではの過ごし方。

湊 三次郎
“銭湯を日本から消さない”をモットーに活動する〈ゆとなみ社〉代表の湊三次郎さん。

余白のある名店〈源湯〉の主が語る、京都の余白

正体不明の店を受け入れる京都ならでは、の土壌。

銭湯では各スタッフの個性が自然に出るスタンスで運営したいと考えています。〈あきよし堂〉は個性的で、癖のある店主が私物を売る店。ぐちゃぐちゃですけど、僕が学生だった15年ほど前まではこんな店がいろいろあったんです。でも謎のお店を受け入れる土壌が京都にはまだある。

昔の大学生の部屋のような、銭湯の2階の〈あきよし堂〉
上京区の銭湯〈源湯〉の2階にある小さな一室。店主の中村Aさんがおすすめする私物、古本、CD、雑貨、古着などを販売するフリーマーケットのようなスペース。部屋は膨大なモノに囲まれた、ほぼ足の踏み場のない状態。まるで、映画に登場するような昭和の大学生の下宿のよう。なのだが、ひとたび入れば、ソフトな語り口の中村さんとの会話も相まってやけに落ち着く。

あと、ゆっくりしたい時は山科へ行きます。疏水沿いは気軽にくつろげるし、リアルな“哲学の道”。銀閣寺の方の実際の哲学の道は観光客が多いので。こちらでは考え事もできる。

観光客のいない、静かな山科の散歩道、琵琶湖疏水
琵琶湖疏水は京都と滋賀県大津市の琵琶湖をつなぐ、1890年に造られた人工運河。京都の蹴上から琵琶湖までは7.4㎞ほど。散歩コースとしても知られている。写真は、京阪京津線の四宮駅近くの第一疏水、疎水船山科乗下船場。京都市動物園のそばにある蹴上インクラインには模型や資料などが展示された琵琶湖疏水記念館がある。2020年、文化庁の日本遺産として認定された。疏水船が蹴上から大津港などのコースを運航している。

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