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カンヌ選出作『見はらし世代』の黒崎煌代と団塚唯我が、映画を語る

2025年のカンヌ国際映画祭・監督週間で、『国宝』と並んで選出された映画がある。『見はらし世代』だ。北野武や黒沢清など、名だたる監督が通ったこの部門だが、本作の監督の団塚唯我は当時26歳。日本人監督として最年少での選出だった。一方、本作が初主演となる23歳の黒崎煌代も、スクリーンで圧倒的な存在感を放つ気鋭の役者だ。そんな2人はプライベートでも親交が深い。同世代の盟友だからこそ撮れた傑作の秘話、そしてお互いの好きな映画を明かしてくれた。

photo: Madoka Shibazaki / styling (Kurosaki): Takumi Noshiro / hair&make (Kurosaki): TOMOE (artifata) / text: Kazuaki Asato

家族と街。「言葉にできない感覚をフラットに映したかった」

左から、俳優の黒崎煌代、映画監督の団塚唯我。

団塚唯我

『見はらし世代』の脚本を書いたのは今の黒崎君と同じ22、23歳の頃。当時は一番身近なコミュニティが家族だったのと、自分が東京出身ということで、渋谷の再開発に携わる“ランドスケープデザイナー”を父に持つ青年を主人公にしました。

黒崎煌代

この映画とは関係なく、監督とは作品の舞台になったMIYASHITA PARKの屋上で、よくお茶しました。なんてことない男子の会話をしながら。あそこ夜はナンパスポットだから様子を観察しながら「どうだ?」「あれはムリだな……」とか話して(笑)。

団塚

悪い顔してるなぁ(笑)。でもあの風景を見ながら、渋谷を生きる生々しい若者を撮りたい気持ちが高まりました。宮下公園の再開発には問題もある。でもその現実を知らずにそこで遊ぶ若者をただ断罪するのもなんか違う。言葉にできない複雑な感覚をフラットに記録したくなったというか。

黒崎

役作りについてはほとんど話してないけど、一緒にあそこで過ごした時間は演じるうえで参考になりました。あとは……リフティングが(苦笑)。

団塚

主人公の子供時代役の(荒生)凛太郎君が上手だったから、急遽リフティングの描写を追加して。黒崎くんは毎日、練習報告をくれたよね。

黒崎

あの練習時間に、映画では描かれなかった空白の10年間をぼやっと想像してました。でも肝心のリフティングは本番でうまくできなくて最悪だった。編集に助けられました(笑)。

黒崎(右)/ジャケット80,300円、パンツ38,500円(共にLAD MUSICIAN/LAD MUSICIAN HARAJUKU TEL:03-3470-6760)、その他スタイリスト私物

団塚

撮影中はどんな会話してたっけ。特に映画談議みたいなことはしてなかった気がする。

黒崎

そうですね。あ、映画で言うとギヨーム・ブラック監督の『みんなのヴァカンス』って観ました?

団塚

あれは脚本も空気感もすごい。

黒崎

ね!めっちゃいいよね!演劇学校の生徒とワークショップして、そのまま撮ってるから生々しい。

団塚

それで言うと最近観直した是枝(裕和)監督の『奇跡』がすごかった。主人公の兄弟役を、兄弟漫才師のまえだまえださんが演じてるから、フィクションだけど現実の兄弟の雰囲気が反映されてるんだよね。

黒崎

僕は戦争を描いた映画が好きで日本だと『野火』(塚本晋也監督)がイチオシですが、監督には『パサジェルカ』をオススメしたいです。描き方が容赦なくて、余計な人間ドラマがないのもいいんです。

団塚

へぇ、その作品は知らなかった。観てみます!

『見はらし世代』
監督:団塚唯我/出演:黒崎煌代、遠藤憲一、木竜麻生ほか/都市開発に携わる父は仕事にかまけ、家族が壊れてしまう。母の死から数年が経ち、遺された父と姉弟が再会。変わりゆく現在の渋谷と家族の物語が交差する。10月10日、Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下ほかで全国順次公開。

お互いがお互いにオススメする名作映画

黒崎オススメ

『パサジェルカ』(1963年/ポーランド)

主人公はアウシュヴィッツ強制収容所で看守をしていた女。豪華客船の旅の途中で、かつて交流のあった女囚に瓜二つの女を見かけ、ホロコーストを回想する。監督のアンジェイ・ムンクが撮影期間に事故死。未完の名作としても知られる。

団塚オススメ

『奇跡』(2011年/日本)

両親が離婚し、鹿児島と福岡で離れ離れになった兄弟が、九州新幹線全線開業の朝、家族の絆を取り戻そうとする。当初はボーイ・ミーツ・ガールものとして企画されたが、オーディションでまえだまえだに惹かれた是枝監督が当て書きした。