珍奇植物の聖地、メキシコ・オアハカへ

メキシコの植物といえば、サボテンというイメージが強いが、今はアガベを真っ先に連想する人も多いかもしれない。それほど、ここ数年、日本ではアガベの人気が高まっている。その多くはメキシコ産で、中でもオアハカ州は最も多様なアガベが自生するエリアだ。今回は、そんなメキシコのフィールドを知り尽すエクスペディションチーム〈Nimitz il Namiki〉にオアハカのビザールプランツを案内してもらった。

初出:BRUTUS No.896『新・珍奇植物』(2019年7月1日発売)

photo: Aya Muto / text: Shogo Kawabata / coordination: Joseph Simcox, Nayuta Tsugaoka / cooperation: Yu Onochi

オアハカの中心街から北上し、まずは挨拶代わりに、日本でのアガベ人気を牽引しているティタノタを目指す。巨大な鋸歯を持つ、迫力満点の種だ。

プエブラ州との境付近、テペルメメ・ビージャ・デ・モレロスの幹線道路で、〈NimitzilNamiki〉のサロモンが車を止めると、メキシコの山刀であるマチェテを片手に、岩場に向かって歩きだした。すると10分も経たないうちに、あのティタノタは姿を現す。幹線道路からも目を凝らせば見えそうな場所だ。

ロゼットがグッとつぼまり、自生地らしい引き締まった姿。サロモンはこのティタノタを「ヴェルデ」と呼ぶ。緑のティタノタという意味だ。「次はアズールを見に行こう!」とすぐに我々をせかすサロモン。そう、ティタノタには緑色の「ヴェルデ」と青色の「アズール」と呼ばれる2つがあった。

日本で人気のティタノタは、緑色のヴェルデの方だ。緑色の短い葉に、大きな鋸歯をつけるこの植物は、メキシコ人シードコレクターのフェリペ・オテロが1980年代に種を収集し、普及させたもの。彼の採集ナンバーから、俗に「FO ‌76」と呼ばれた。しかし、オテロの種を育てた愛好家たちは、生長した姿を見て驚いた。もともとティタノタとして記載されていたアガベとは、異なる特徴を持っていたからだ。

オテロの採取から遡ること数年前の1982年、ハワード・ジェントリーがテペルメメ・ビージャ・デ・モレロスのランチョ・タンボールと呼ばれる山の近くで発見し、記載されたのがティタノタである。その特徴は、「青色の細長い葉」だった。そこから「アズール」とも呼ばれる。しかし、時が経つにつれ、緑で短い葉を持つ「ヴェルデ」の方が普及し、ティタノタと認知されるようになった。

逆に、ジェントリーのティタノタは、いつしか忘れ去られてしまった。そのジェントリーの見つけたティタノタの再発見に取り組んだのが、前回の珍奇植物特集に登場したアメリカ人シードコレクターのジョセフ・シムコックスだ。彼はニューメキシコ州の有名な種苗屋・メサガーデンのスティーヴ・ブラックに依頼され、ランチョ・タンボール周辺を調査し、2004年にジェントリーのティタノタを再発見した。

〈Nimitz il Namiki〉は、ジョセフと調査をともにするチームメイトでもあり、ジェントリーの見つけたアズールの自生地にも案内してもらえた。そこはランチョ・タンボール周辺の車で入れる場所から、さらに片道3時間ほど山道を歩いた場所にあった。

青というより白に近い葉は美しく、鋸歯もヴェルデほどではないが、大きなものがついている。アズールは、ヴェルデとはまた違った、どこかエレガントな魅力を纏う植物だった。

そして、2019年6月、ついにヴェルデは「アガベ オテロイ」として新種記載され、2つのティタノタの物語は幕を閉じた。