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MERCI BAKE/CHEZ RONAがベルリンとコペンハーゲンへポップアップの旅に出る。〜後編〜

東京・世田谷に店を構える〈MERCI BAKE/CHEZ RONA〉が旅をした。いよいよドイツからコペンハーゲンへ。トラブルから始まった移動、アトリエセプテンバーでは1日限りのポップアップ。盛りだくさんの旅で得たものとは。
前編はこちら

Text: Hina Hirano / Photo: Melina Sutter

空港のストライキで飛行機が飛ばない。さてどうする。答えはバス。朝4時に暗いバスターミナルを出発し約8時間のバスの旅。ヨーロッパの田舎町をひたすら北上する。どうなることかと思ったが、これが良かった。こんなこともなければ見ることもない素朴な片田舎の景色をのんびりと眺める。なんだか疲れているはずなのに、嬉しくて眠れない。あっという間にドイツの北端の港町からバスはフェリーの中へ。30分ほど船に揺られたらデンマークだ。

バスはコペンハーゲンのセントラルステーションに到着した。何年振りのコペンハーゲンだろう?駅の周りに高層マンションなんてその当時はなかったな。チボリ公園はそのまま健在の様子だ。アパートに荷物を置いて〈アトリエセプテンバー〉を目指す。お店は明るく洗練されながらも、お客さんはリラックスモードでこちらもホッとする。

〈ロナ〉のお客さんでコペンハーゲンの「アポロバー」でシェフをしているゆうた君が来てくれる。彼が日本にいる時にこっちの店で働くことになったという知らせを聞いて、いつか行ってみたいと思っていた。こんなにも早くに実現するなんて嬉しいな。その夜はお薦めしてくれたタイ料理を食べ、翌日に備えた。

〈アトリエセプテンバー〉のポップアップは1日限り。この日に用意したデザートは〈ロナ〉定番のホイップドバターのクレープと〈アトリエセプテンバー〉のシェフと合作したトマトをたっぷり使った塩味のクレープの2種類。オーナーシェフのフレドリックも現れて、優しく迎え入れてくれた。

店内はひっきりなしにお客さんがやってくる。テーブル番号もなんだか適当だし、注文の筆跡が読み取りにくくて苦労するが、私も店のサービスに参加する。担当のダニーがとにかく明るくて私を引っ張ってくれる。たった1日限りの私たちを温かく迎え入れてくれるなんて嬉しい限りだ。夕方には売り切れて完了。今度はシェフが私たちをもてなしてくれた。こうして食を通した文化交流が行われ、お互いの持ち味を交換したのだった。

〈MERCI BAKE/CHEZ RONA〉のヨーロッパ遠征が終了した。暖かく迎えて自由にやらせてくれたお店のオーナーとそこで働くスタッフたち、注文して味わってくれたお客さんたち、SHOJIくんと写真を撮ってくれたメリナ、そして私たちにわざわざ会いに来てくれた友人、知人たちにとにかくありがたい気持ちで胸がいっぱいになる。個人的には、職人でもない私まで連れていってくれたうちのボスにも感謝の気持ちでいっぱいだ。本当にありがとう。

ベルリンとコペンハーゲンのお店で働いて感じたことは、店と客の距離感が近いということ。これは物理的なことではなく、働く人とお客さんがそのお店の雰囲気をつくっているということ。お客さんの反応や言葉、連れてくる大きな犬、その自由さが緩やかな雰囲気を醸していた。日本は何だかサービスする側とされる側がきっちり別れ過ぎている気がする。そこに変なヒエラルキーが出来上がっているし。

良かった部分も課題として見えたことも、体験したことが宝になった。帰りの飛行機の中では早くロナで働きたい、次はあんなふうにサービスをしたいといろんな思いが駆け巡った。世界は広い。どんどん出ていけば必ず道は開けると確信できた。この数年のコロナ禍もあり海外へ出ていくことが遠のいていたし、今ではなんでもインターネットで見聞きできるけど、やっぱり自分の身を外に置いて体感することは実に大きかった。

若い人たちや子どもたちにはそういう世界を見てもらいたいと思う。SNSによって均質化されているのかもしれないけど、センスはボーダレスになっている。これまでに培ってきたことが世界で通用することだって普通にあり得る。これはアートや音楽やいろんなジャンルについても言えることだと思う。みんな臆せず体験してほしい、そこで得るものは必ずあるから。

〈ユリウス〉のインガが最後に『もうここはあなたたちのホームよ、いつでもまた帰ってきてね』と言ってくれた言葉が本当に嬉しかった。また〈ユリウス〉にも〈アトリエセプテンバー〉にも行きたいなと思う。