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MERCI BAKE/CHEZ RONAがベルリンとコペンハーゲンへポップアップの旅に出る。〜前編〜

東京とベルリンとコペンハーゲンの交流。世田谷に店を構える〈MERCI BAKE/CHEZ RONA〉が旅をした。外国のカフェで働くってどんな体験なんだろう。後編はこちら

Text: Hina Hirano / Photo: Melina Sutter

私が働く経堂にある〈シェ ロナ〉がベルリンのカフェ〈ユリウス〉でポップアップを開くことになった。それに先駆けて〈ユリウス〉のオーナーの一人でもあるコーヒーロースターのSHOJI君が〈ロナ〉にやってきてコーヒーを淹れてくれた。彼が淹れるコーヒーはとても澄んでいて瑞々しいのに、しっかり味わいのあるすごく好きなコーヒーだった。外国のカフェで働くってどんな感じ?スタッフ達はどう働いて、お客さんたちは〈ロナ〉のお菓子にどう反応するんだろう。興味がどんどん湧いてきた。私は店でサービスをしているのだけど、今回はサービス兼プロの洗い場主としての役割を拝命。オーナーの田代翔太くんと右腕のマリナちゃんについて行くことにした。

せっかくならとSHOJI君がコペンハーゲンの〈アトリエセプテンバー〉でもポップアップをしましょうと話をつけてくれたので、2都市を巡る旅になりそうだ。コロナ明け久しぶりの海外、すっかり海外が遠く感じるようになってしまっていた。ベルリンもコペンハーゲンも15年前に一度だけ訪れたことのある街。とても楽しみだ。海外旅行はいろいろとしてるけど、現地で働けるなんてどんな感じだろうとワクワクした。


ベルリンに到着し〈ユリウス〉へ直行。光の差し込む広い店内に開放的な厨房を目にして、明日からここで仕事をするのか、と胸が高まる。はじめましての挨拶を交わし、器具などのチェックを済まし初日は終わった。翌日は朝から一日中仕込み。普段の私の仕事では製造に携わることはほとんどないので、これもまた新鮮だ。現地の乳製品と小麦に手こずりながらも、東京の〈ロナ〉と〈メルシーベイク〉で馴染みあるお菓子を仕上げていく翔太君。

いよいよ初日を迎える。その日はベルリンの人たちにとって、長い冬が終わって春がようやく来た!という晴れやかな日だったようで、みんなとても嬉しそうだ。開店同時とともに広い店内があっという間に満席になる。〈メルシーベイク〉も〈シェ ロナ〉も知らないベルリンの人たちが喜んだ顔をしてお菓子を食べている。

私は拙い英語力ながらも何故かすごく軽やかにお客さんたちとやりとりができた(と思う)。「これ美味しい!」とか「アメージング!」とかストレートに言ってくれるから嬉しい。翔太君が作り出すお菓子がどんなふうに受け止められるか楽しみだったが、どうやら現地のお客さんにも好評のようだ。厨房で忙しくしている翔太君とマリナちゃんにお客さんの様子を伝えると、やっとホッとした顔になった。あっという間に売り切れとなり、翌日出す分もなくなるほど忙しい初日を無事に締めくくれた。楽しかった。

〈ユリウス〉に来ているお客さんを見ていると、お店との距離感が近い。大きな犬が自由に行き来していたり、テーブルを超えた会話を楽しんでいたり、いろんな景色がある。スタッフ同士の声の掛け合いも優しく、互いが幸せに働けているかを常に気遣っていた。数日しかいない私たちにさえ家族のように安心感を与えてくれてありがたかった。

2日目も無事に終わり、ポップアップは好評のうちに閉幕した。その夜は〈ユリウス〉のディナーに招待をしてくれていて、昼間とはまた違う雰囲気を堪能できた。料理も素晴らしく、普段の様子が見られたのも嬉しかった。私たち3人は仕事をやり遂げた充実感に浸りたかったが、翌日のコペンハーゲン行きのフライトがなんとストライキでキャンセルされたことが判明し、にわかに胸がざわつくのだった。果たして明日、コペンハーゲンまでたどり着くのだろうか。これぞ旅だよね。