「名車探偵」映画・ドラマに出てくるクルマの話:プジョー205GTI 1.6

車好きライター、辛島いづみによる名車案内。記念すべき第1回。

Text&Illustration: Izumi Karashima

パリを走るハッチバックは
ワタシの最速の消しゴム。

リュック・ベッソンの映画『サブウェイ』を観たのは思春期の頃。読めもしない『星の王子さま』を原書で買い、行ったことのないパリの地図を暗記し、「フランス人になりたい病」を患っていた自称“リセエンヌ”の頃。『サブウェイ』も憧れのイザベル・アジャーニがヒロインとあって観に行った。が、イザベル様より“テンロク”こと「プジョー205 GTI 1.6」の姿に目を奪われた。

クルマ好きの根底には幼少期に体験した「スーパーカーブーム」がある。小学校では「スーパーカー消しゴム」が大ブーム。ランボルギーニ・カウンタックやフェラーリ365GTなどを模した消しゴムで、教科書で作った“市街地コース”を三菱のボールペンBOXYではじき飛ばしながらレースをするという、牧歌的な遊びが男子の間で盛り上がった。

ワタシは女子だが積極的にその輪に加わった。動機は単純。その中心に好きな男子がいたからだった。

ワタシは好きなコができると「キミになりたい病」を患うクセがある。まさに「フランス人になりたい病」の源流で、好きなコの口癖や仕草を真似し、同じものを持ちたくなってしまう。

で、スーパーカー消しゴムをたくさん所有していたそのコに倣って、ガチャガチャを回し、『サーキットの狼』を熟読。結果、消しゴムの裏にボンドを塗って滑りをよくし、ボールペンのバネも補強、「クラスで最速のロータス・ヨーロッパ」を作り上げ、「ウチのクラスの風吹裕矢」ポジションへと上り詰めた。キミ以上のキミになってしまい、当然のごとくキミには 嫌われてしまった。

『サブウェイ』 は、パリの地下鉄の構内を不法占拠して暮らすアウトローの話だが、冒頭、クリストファー・ランバート演じる主人公が運転するテンロクがパリの街を走り抜けるシーンから始まる。メルセデス・ベンツ500SELの追跡をかわしながら、パリの環状線ペリフェリックから市街地を抜け、最後は地下鉄の駅へ突入。シビれた。パリの狭い街路をキビキビと走るハッチバックは、教科書で作ったコースを滑るように走っていたワタシの消しゴムそのものだった。

以後、ハタチで免許を取って現在に至るまで、ワタシはハッチバックのマニュアル車ばかり乗り続けている。