「名車探偵」映画・ドラマに出てくるクルマの話:フィアット・パンダ(初代)

車好きライター、辛島いづみによる名車案内の第39回。前回の「ディーノ」も読む。

text & illustration: Izumi Karashima

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日本人はパンダがお好き?

20代の終わりから10年近くパンダを飼っていたことがある。黒柳徹子も大好きな上野動物園のアイドル、ではない。クルマのことだ。

1980年に登場し、モデルチェンジを重ねながら2023年まで製造・販売されていたフィアット社の小型ハッチバック。ワタシが“飼っていた”のはジョルジェット・ジウジアーロがデザインした初代パンダで、オープンカーのような開放感を味わえるダブルサンルーフの4×4(4WD)モデルだった。

毎日どこへ行くにも一緒。洗車をろくすっぽしないので「履きつぶした上履きみたい」なんて“褒め言葉”もよくもらった。最後はいろいろと修理代がかさみ、泣く泣く手放すことになってしまった。今も現役で走っている姿を見かけると心がキュッとなる。走るたびにバタバタと音を立てる雨漏りがデフォルトのキャンバストップ、夏はまったく効かないクーラー、スピードを上げると心もとなくなるペラペラボディ、鬼のように踏みしめないと利かないブレーキ。でも、そこがよかった。少々難ありの愛(う)いヤツだった。

そんなポンコツが、近年の日本映画によく登場しているのである。長澤まさみ主演の『嘘を愛する女』、福士蒼汰主演の『旅猫リポート』(共に2018年)、夏帆主演の『ブルーアワーにぶっ飛ばす』(19年)。どの映画も「主人公がクルマで旅をする」ときの相棒となるのだが、母国イタリアの映画やドラマでさえこんなふうにメインで登場するのは稀(たぶん、大衆車すぎて特別感がないからだろう)。

しかしなぜ日本映画なのか。昨今のヤングタイマー車ブームもあるけれど、角張ったフォルムにキャンバストップ、チェック柄のシートは圧倒的に“映える”。そして、どこかトボケたかわいさもある。そう、“Sexy”じゃなくて“Kawaii”。日本人ウケする理由はそこにあるとワタシは思う。

そういえば。アニメ『シティーハンター』では、冴羽獠の愛車はミニクーパーで、相棒・槇村香の愛車はパンダだった。この春、Netflixで実写化された鈴木亮平主演の『シティーハンター』は、ミニはもちろん登場するもののパンダの出番はなかった。もしもシリーズ化されるなら、次回は出てほしい。森田望智とパンダ、絶対似合うよ!

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