高原とジープとチャーミングな田宮二郎
眉間にシワを寄せ、ニヒルな笑いを浮かべる男。幼い頃、田宮二郎が好きではなかった。志村けんが「推し」のワタシにとってクールすぎる男だったし、彼の当たり役、『白い巨塔』の財前五郎が強烈だったこともある。
山田太一追悼で何かドラマを観ようと、『高原へいらっしゃい』(1976年)に目を留めた。山田先生のドラマは『男たちの旅路』以降、だいたい観たが、『高原へいらっしゃい』は観てなかった。「主演・田宮二郎」が苦手で、後回しにするうちに何十年も経ってしまったのだ。しかし、ワタシはすでに田宮二郎の享年を越えている。ただの年下じゃん!
そして、ニヒルな二郎像は崩壊したのである。ドジな二郎、大慌てな二郎、ゴキゲンな二郎、メソメソする二郎、ハジける二郎。もう、すべての回の二郎がチャーミング。ごめん、食わず嫌いのワタシがバカでした。
主人公・面川は、かつては一流ホテルのフロントマネージャーだったが失脚、八ヶ岳高原にある廃墟同然の小さなホテルをとある人物から任される。しかし用意された資金はわずか。面川は東京でくすぶっている若者たち(当時20代の由美かおるや池波志乃!)や伝説のシェフ(益田喜頓!)に声をかけ、DIYでホテルの再建を始める。
何が面白いって、クールで理知的なはずの面川が、夢見がちでちょっとヌケた人物に描かれており、そこを前田吟演じる副支配人・大貫が口うるさく突っ込むのである。それは、ボケとツッコミの漫才。前田吟のテンションは『男はつらいよ』で「寅さん」を叱るときと似ていて、田宮二郎がだんだん渥美清にも見えてくる。さらに、スタッフ全員ホテルに住み込みで、面川と大貫も同部屋の二段ベッドで寝起きをしているのでBL感もある(面川は二段ベッドでもナイトガウンのハンサムボケ)。
ということで。ドラマに印象的に登場するのがジープだ。資金不足で送迎車を買えず、尾藤イサオ演じるスタッフ・七郎のジープだけが頼り。回を追うごとにジープの重要度は増し、終盤では面川の発案でホテルの宣伝カーとして都内を走る。
田宮二郎、権力欲にまみれた財前ではなく、楽天的な面川こそ自分の天性と思えたなら、この世に踏みとどまったかもしれない。