「名車探偵」映画・ドラマに出てくるクルマの話:トヨタ・スタウト

車好きライター、辛島いづみによる名車案内の第32回。前回の「マツダ・ファミリアAP」も読む。

text & illustration: Izumi Karashima

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黒板五郎のピックアップトラック

田園風景の中を走るオンボロのピックアップトラック。ベンチシートにはドライバーの父、その隣には彼の2人の子供たちが並んで座っている。彼らは父の実家がある「過疎の村」へと向かっている。

息子「父さん、過疎ってどんな字を書くんですか」。
父「……」。

1980年秋。黒板五郎は、息子・純と娘・蛍と共に東京から北海道・富良野へやってきた。妻の令子が家出してしまい、人生をやり直すために幼い子供たちを連れ、生まれ故郷に戻ってきたのだ。

2024年正月、ワタシは“また”観ている。ドラマ『北の国から』を。ここ数年、年末年始になるとシリーズ全部をイッキ観するのが恒例となった。たぶん、忘れてしまった何かを、年の瀬になると思い出したくなるのだ。年を取ったせいもある。純や蛍と同世代というのもある。

『北の国から』は連ドラ(1981〜82年放送)と、その後のスペシャル版と、子供たちの成長に合わせ20年以上続いたシリーズである。『'84夏』の丸太小屋全焼、『'87初恋』の汚れた一万円札、『'92巣立ち』の誠意のカボチャなど、語り継がれる名シーンは多々あるが、ワタシが繰り返し観てしまうのはその原点、ファーストシリーズ全24話。

どの話も素晴らしく、純を演じる吉岡秀隆と蛍を演じる中嶋朋子の名子役ぶりが光る。中でも、純と蛍が母の恋人に新しい靴を買ってもらい、父が買ってくれたボロボロの運動靴を捨ててしまうシーンは出色。

脚本を書いた倉本聰は、「あの子たちは僕自身の投影で、子供の姑息さを描いている」と以前語っていたが、それはワタシの子供時代そのものでもある。観ていると気恥ずかしい気分になってくる。

田中邦衛演じる五郎の「青さ」にも惹きつけられる。電気も水道もない大自然の中で子育てをするも、『大草原の小さな家』のようなたくましい“父さん”には程遠く、頑固で子供っぽい男であるのがいい。

そんな五郎の相棒がトヨタ・スタウト。文なしの五郎のために幼馴染みの中畑(地井武男)が用意してくれた小型トラックだ。各話で活躍するが、スペシャル版からは日産ジュニアに変更されてしまう(大人の事情だろう)。『2002遺言』まで愚直な五郎はスタウトに乗り続けてほしかったな。

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