「名車探偵」映画・ドラマに出てくるクルマの話:シトロエンBX GTI 16V

車好きライター、辛島いづみによる名車案内の第14回。前回の「ホンダ シビック」も読む。

text&illustration: Izumi Karashima

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わかる人にはわかる
売れない芸人の赤いクルマ

「今さらなんだけどさ。ただのクルマじゃねえんだなと思って。だってさ、このクルマの中にさ、マクベスの歴史、全部詰まってんだぞ」。

28歳の春斗(菅田将暉)、瞬太(神木隆之介)、潤平(仲野太賀)の3人は、高校時代の同級生。お笑いトリオ〈マクベス〉として活動して10年経つが鳴かず飛ばず。30代突入を前に、トリオを解散し、それぞれの道を歩む決断をする。

そこで、彼らの移動車だったオンボロの“赤いクルマ”を手放すことにし、元芸人の先輩が経営する中古車店へ持って行く。冒頭は、3人で「最後の洗車」をしながら、クルマにまつわる思い出を語り合っている途中、春斗が感極まって言う台詞だ。「コイツ、4人目のマクベスだったんだなと思って」。

昨年話題になった『コントが始まる』は、日本のドラマでは珍しく「クルマ愛」が感じられる作品だった。“赤いクルマ”は、もともとは瞬太の愛車で、「ぷよぷよ」の大会で優勝した賞金で買ったのでナンバーが「2424」だったり、潤平は最愛の恋人・奈津美にちなみ「723」のナンバープレートの写真を723枚集めていたり。

クルマに関する小ネタが物語のキーになり、クルマ好きの心をくすぐった。“赤いクルマ”は劇中では正体が明らかにされないが(大人の事情だろう。エンブレムもシールで隠されていた)、独特のカタチを見ればシトロエンBXだとすぐにわかる。おそらく、脚本の金子茂樹が指定したんだと思う。

決してメインストリームにはなり得ない「わかる人にはわかる」お笑いをやっているトリオの「4人目」だ。カローラやプリウスでは成立しない。

BXはシトロエンが開発した独自の油圧システム、ハイドロニューマチックが特徴で、エンジンをかけると車体がググッと持ち上がり、パーキングにするとググッと下がる。その姿は飼い主を待つ犬のようで愛らしい。気難しいので手を焼くけれど(ワタシは以前「飼っていた」が、とにかくよく壊れた)。

春斗は老犬のようなクルマを洗いながら涙を流して言う。「なんか生きてるみたいじゃない、コイツ」。●ドラマでは、クルマは後日28万円で売りに出される。日本中のBX好きが椅子から転げ落ちただろう。安っ!オレが買うよ!

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