「名車探偵」映画・ドラマに出てくるクルマの話:フォード・サンダーバード

車好きライター、辛島いづみによる名車案内の第12回。前回の「シボレー・カマロ」も読む。

text&illustration: Izumi Karashima

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サンダーバードを
一番カッコよく乗る女たち。

コカインをキめてハーレーにまたがり、自由の国をさまようキャプテン・アメリカとビリー。しかし、彼らの自由は、「テメぇらみたいのがいるから国が廃れるんだよ!」と逆ギレした農夫に撃ち殺され終わってしまう。『イージー☆ライダー』(1969年)は、デニス・ホッパーが撮ったイージーではないヘビーなアメリカの現実を描いた映画。

男たちは、そこに自由はなかったと死んでいった。ならば、自由を求めて疾走した女たちはどうだったか。リドリー・スコット監督の『テルマ&ルイーズ』(91年)。アーカンソーの小さな町でウェイトレスとして自活するルイーズ(スーザン・サランドン)と専業主婦のテルマ(ジーナ・デイヴィス)、マブダチの彼女らは、週末のドライブ旅行に出る。

ルイーズは恋人のバンドマンとうまくいかず、テルマは亭主関白の夫に家政婦のように扱われている。うさ晴らしのための“2日間だけのバカンス”のはずだった。夫しか男を知らないテルマは、久々の旅行にテンションが上がり、立ち寄ったバーでは男にナンパされて無邪気にはしゃぐ。

男あしらいがうまいルイーズは、そんなテルマをたしなめるも、抑圧された日々を送る彼女の境遇を思うと、つい手綱を緩めてしまう。ナンパ男はそのスキを狙い、酔ったテルマをレイプしようとするが、間一髪、ルイーズがテルマを救う。そして、男に汚い言葉で罵られ、ブチ切れたルイーズは持っていた38口径で男を射殺。

警察に行こうとテルマは言うが、ルイーズは首を振る。「警察に話してもムダ。女が悪いと言われるわ」。66年モデルのブルーメタリックのフォード・サンダーバードを駆り一路メキシコを目指す2人。逃走途中、ヒッチハイクのイケメン(当時は無名のブラッド・ピット)と出会う。

テルマは一目惚れするが、彼は学生を装った強盗。有り金を全部盗まれてしまう。それまで無邪気だったテルマは一変、警官を脅し、強い女へと変貌する。ラスト、2人は何十台ものパトカーに囲まれ、デッドホースポイントの崖っぷちに追い込まれる。彼女たちが獲得した自由は再び男たちに奪われるのか。いいや、彼女たちは屈しない。アクセル全開で突き進む。自由がその先も続くと信じて。

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