人間には、ガラクタから新しいものを
再創造する力がある
2022年3月下旬、ジョージアの首都・トビリシに着くと雪が降っていた。
「ふつう、この時期はもっと暖かいよ。花も咲き乱れてね。今年は異常気象だね」とタクシーの運転手が言った。
街を歩くと、あらゆる店や民家の軒先にウクライナの国旗が掲げられていた。「プーチンくたばれ」「ロシア人は帰れ」という感情的な壁の落書きも。
2008年にロシアとの戦争を経験したジョージア。今この国には、どんな感情が渦巻いているのだろう。
ジョージアでカリスマ的人気を誇るラッパーであり、ファッションデザイナーでもあるマックス(別名Luna997)は、取材を依頼すると気さくにも自宅に招いてくれた。
本棚に並んでいたのは松本大洋の「Sunny」。日本のアニメや漫画が好きだという。
「11歳のとき初めて『鉄コン筋クリート』を観て衝撃を受けた。路上で生きるシロとクロの姿に人間の本質を感じたよ。そもそも僕らは“リサイクル”の遺伝子を持ってて、どんな状況でもゴミや残骸の中からでも何かを見つけて再創造する力があるんだって」
そう話す彼に、最近のクリエイションや平和へのアイデアを聞いてみた。
ソビエト連邦バージョン2の計画は、
明らかに失敗している
ー マックスさんはいろいろな肩書を持っているので紹介がむずかしいですね。
ミュージシャンとか事業家とかいろいろ言われるけど、僕はいつもExplorerって答えてる。子どものとき、ごっこ遊びでスーパーマンになったり猫になったりしたでしょ。そんな感じでいつもいろいろしてるから。敵は自分の流れを妨げるものって思って生きてるよ。
— 今起こっている戦争をどう見ていますか?
ロシアは今、ウクライナを占領し、次にジョージアや他の周辺国を占領し、ソビエト連邦のバージョン2をつくろうとしてるように見える。でも、それは明らかに失敗してるよね。今はインターネットで複雑な情報がたやすく手に入る時代だから、過去のように大帝国を築くことはできないと思う。
歌詞で伝えたいのは「僕もまだ学んでるところだよ」ってこと
— 戦争が起きてから、寄付を募るファンドを立ち上げYouTubeに曲をアップしましたね。どんなメッセージを込めましたか?
この曲のメロディーは、ジョージアの民謡とリンクしてるんだ。ジョージアの人が聴けば「あ、あの曲に似てる」「これはあの曲かも」ってすぐわかる。ジョージアっぽい曲にしたのは、「ここ」からウクライナをサポートするってことが伝えたかったから。すごくシンプルでしょ。
— 歌詞はどんなことを伝えていますか?
歌詞は、戦争のこととは関係ないよ。僕の歌詞はいつもそうなんだけど、「太陽の下にずっといると日焼けしちゃうよ」みたいなことを言ってるだけなの。自分がリマインドしたいことをメモに残してる感覚。それをネットで公開すると、他の人もそれぞれ使い道を見つけて楽しんでくれるから面白いよね。
あと、いつも歌詞で伝えたいと思っているのは、「僕も迷ってるよ」ってこと。自分が100%正しいなんて思ってない。デタラメかもしれない。僕も探求中だし学んでるところだし。
テクノロジーを“収集”し、平和への鍵を探す
— 世界がこういう状況のときに何かできないかと考える人もいると思うのですが、何かアイデアはありますか?
今すぐ戦争を終わらせることはできないけど、僕はテクノロジーが平和への鍵だと思ってる。1990年代から今までの30年で、ドローンとか3DプリンターとかiPhoneとか、だれも想像しなかったものがいっぱい生まれたでしょ。どこかに、ハリー・ポッターでいうスニッチみたいな、一発逆転を狙えるモノがある気がするんだ。それは何?っていつも探してる。
— アートNFT※の販売も計画中だと聞きました。
今、イラストレーターのパンジ・セと一緒に10,000パターンのアートNFTをつくってて、この販売収益をウクライナに寄付しようとしてる。それから、僕と周りのクリエイターの宇宙を体現するものとして〈temple pharmacy〉というプラットフォームを立ち上げて、アートNFT、音楽、ストリートウェア、ゲームなどを販売する予定なんだ。
— これもマックスさんの言う“リサイクル”に近い行為だと感じます。テクノロジーを見つけ、アイデアと組み合わせて価値をつくること。
何度破壊されても、どんなに絶望的な場所にいても、人間はいつだって今あるものから工夫して何かをつくってきた。車も寺院も言語も全部ね。僕らはそういう生き物なんだよ。