Wear

Wear

着る

ジョン・ガリアーノの言葉で紐解く、メゾン マルジェラのクリエイティブ・ピラミッド

0から23の数字で区分された様々なラインが存在するメゾン マルジェラ。それらの関係性とは?オートクチュールに相当する「アーティザナル」コレクションが、いかにプレタポルテへと進化し、日常的なプロダクトへと具現化されていくのかを学ぼう。

Text : Itoi Kuriyama

メゾン マルジェラのクリエイションの頂点にあるのはオートクチュールに相当する「アーティザナル」コレクション。そこでクリエイティブ・ディレクターのジョン・ガリアーノが提起する概念、テクニック、アイデアがガーメントからシューズ、バッグ、アクセサリーに至るまで、メゾンの全コレクションへと濾過されていく。そのプロセスを図化したのが下の「クリエイティブ・ピラミッド」。ジョン・ガリアーノによる言葉とともに、最新の「アーティザナル」と「Co-Ed」のビジュアルを詳しく見ていこう。

メゾン マルジェラのクリエイティブピラミッド

ライン0 
‘Artisanal’ collection
「アーティザナル」コレクション

メゾンの各ラインは0から23までの番号で区分されており、ピラミッドの頂点に位置し、全てのクリエイションの基盤となる「アーティザナル」はライン0。オートクチュールにあたり、ジョン・ガリアーノ率いるパリのアトリエで手作業で制作される。

2021年7月にフィルム形式で発表されたコレクションでは、どんな概念、テクニック、アイデアが提起されたのか。まずは脚本をジョン・ガリアーノ、監督をオリビエ・ダアンが手掛け、パリのスタジオで撮影された幻想的なフィルム’A Folk Horror Tale’をチェック。その後、フィルム冒頭でジョン・ガリアーノが情熱的に紡ぎ出す言葉を引用しながら、本コレクションに関わる3つのコードを例に読み解く。

CODE : ‘Essorage’「エソラージュ」

マルジェラ エソラージュ

例えばブルジョワジーやイタリアのルネサンスを想起させるジャカード生地を、北部の寒冷なイメージやフェルメールの光、オランダのルネサンス絵画のような感じにするために、ヴィンテージやデッドストック生地を使って通常の8~12倍の大きさにスケールアップしたアイテムを作り、エンザイム・ストーンウォッシュ加工によって適切なサイズまで圧縮している。

こうした慣れ親しんだシェイプやテクスチャー、色調を科学的に変えるネオアルケミー(新錬金術)とも言える新テクニックが脱水を意味する「エソラージュ」。結果、生地本来の色や性質を引き出し、時の経過によってもたらされる着古した風合いをつくり出している。

ジョン・ガリアーノは次のように語っている。

「エソラージュは、クラシックなヴィンテージのデニムジャケットを縮めてフィットさせることにインスパイアされているんだ。そして様々な記憶。例えば、ポケットを剥がすと生地本来の色が現れ、縫い目を解くと元の生地の色や生地そのものが露になる。

このプロセスは私たちの感情を表しているようだった。ポスト・パンデミックにおいて、誰もがこのような苦痛への不安感を持っているのではないかと思うんだ。高速ウォッシュのような焦燥感、先が見えない不安感、自然の持つパワー、そのパワーに直面したときの自らの無力さを」

CODE : ‘Inverted Snobbery’ 「インバーテッド・スノバリー」

マルジェラ ジョン・ガリアーノ

写真は、洗いをかけた粗野なウールのコートを着たメインキャストのモデル、ルル・テニー。ライニングは手が込んでいて、イラストが描かれた生地に切り込みを入れて立体感を出している。

「スタッフの夏休みの絵日記にとてもインスパイアされたんだ。それが“インバーテッド・スノバリー(スノッブ意識の反転)”というアイデアに繋がっていく。飛び出す絵本のような最高に美しいライニング。その色が見えるように切り込みを入れていて、まるで内側に不思議な地図が存在するかのような仕組みになっている。内側には洗練された手仕事が施され、外側は洗いをかけて縮めたウールのコート。その対比が絶妙なんだ」
 
つまり、「インバーテッド・スノバリー」とは、質素な素材を魅惑的に変化させる表現。

「超洗練の中に存在するとてつもない荒々しさが、私は大好きなんだ」

CODE : ‘Anonymity of the lining’「アノニミティ・オブ・ザ・ライニング」

マルジェラ ジョン・ガリアーノ

ライニングという内側の要素を匿名化し、デザインや機能として第二の用途を見出すこの手法は、ガーメントをはじめアイコンバッグ「5AC」などにも反映されている。内側に使用されるライニングが引き出され、大胆に変形したドレスからスカートが飛び出したようなイリュージョンを生み出す。

白い無地のラベル 
‘Co-Ed’ collection
「Co-Ed」コレクション

2021年、ジョン・ガリアーノによって男女共通を意味する「Co-Ed」と再定義された、白い無地のラベルのコレクション。いわゆるプレタポルテである「Co-Ed」の2022年春夏は、新時代のユートピアンユース(夢想家の若者たち)の願望を探求し、若者たちが歴史を感じさせるモノに宿る安心感や信頼性に魅かれる意識を表現している。

まるで時を経て変色したような「エソラージュ」のベルベットコートや、質素なトーションファブリックに上質なデヴォレのレースをレイヤードした「インバーテッド・スノバリー」のコートのライニング、ヘリンボーンドレスの上に重ねたカラフルなネットに、釣り具のような羽根飾りの刺繍をあしらった「アノニミティ・オブ・ザ・ライニング」のドレスなど、「アーティザナル」で定義されたコードはここでも色濃く反映されている。

ライン1・ライン10
‘Avant-Première’ collection
「アヴァン・プルミエール」コレクション

かつてのプレコレクションに相当する、シーズンごとに提案されるコレクション。2022年春夏は、ポスト・パンデミックの世界を見据えて、優しさやくつろぎ、リラックスしたムードを感じさせる。

「Co-Ed」でプレタポルテとして進化したコードは、日常的なワードローブに。

ネットのような実用的な素材が用いられたチュールのコートやジャケットは「Co-Ed」で登場したフィッシュネットからの着想で、まさに「インバーテッド・スノバリー」であり、リバーシブルや2wayのアイテムは、「アノニミティ・オブ・ザ・ライニング」のアイデアが反映されているのだ。くわしくは3月にアップされるファッションストーリーで。

2022 S/S〈メゾン マルジェラ〉の「アヴァン・プルミエール」コレクション 〜静かな日々〜

ライン4・ライン14 
‘Icons’ collection
「アイコンズ」コレクション

2021年、ジョン・ガリアーノによって、ライン4と14は「アイコンズ」として新定義され、ジェンダーレスでタイムレスなワードローブとして進化。「Co-Ed」の中から、永続的に残せるコードやキーアイテムを抽出している。詳しくは、こちらで。