「2016年の夏が、すごく暑かった。心身共に調子が悪くて、破壊衝動みたいなものもあり、何もうまくいかないってなった時、自分は漫画を描くことに救われてきたということを、改めて感じました。その時にふと頭に思い浮かんだのが、暑い世の中、荒廃した世界、コンビニに取り残された、何の役にも立たない漫画雑誌。すごく短いネームにはしたのですが、当時は完成せず、ずっと温めてきた物語でした」
“漫画は孤独を救えるか?”がテーマでもある本作。高見さん自身が考える答えは。
「『さらば、漫画よ』を描くにあたって大事にしたかったのは、人それぞれ、違う正解を持っていていいんだということ。正解は自分自身で決めるものであって、多様な主観が入り混じっている世界を私は肯定したいと思っています。漫画を描く時、私はある種、神様みたいな目線にいるので、当事者の思い悩んでいることがよくわかる。救ってあげたいとは少し違いますが、“見てるよ”と思いながら描いています。現実社会でも同じで、視点を変えれば、自分の些細な言動に、どこかで誰かが救われているかもしれない。そういう小さな希望みたいなものをすくい上げて描くことで、報われる人たちもいるはず。だから、漫画は孤独を救えると、私は言いたいですね」
高見奈緒が救われた漫画
『漂流教室』著/楳図かずお
大地震が発生し、小学校の校舎がタイムスリップ。荒廃した未来で描かれる、教師と生徒のサバイバル。
「小学生の頃に初めて漫画の力を感じた作品。恐怖という一つの感情が多様に表現されています」
『火の鳥』著/手塚治虫
手塚治虫のシリーズ漫画作品。過去と未来を行き来しながら、生と死を描く。
「人間の営みを極限まで突き詰めると、こうとしか語れないというくらい、削ぎ落とされて描かれているところに惹かれます」
『ポーの一族』著/萩尾望都
永遠の命を持ち、人の生き血を吸うバンパネラの一族。人間のふりをしながら、一族に迎え入れる者を探す。
「変化が苦手なのですが、この作品にはずっと変わらない普遍性を感じ、すごく安心しました」