マンガの単行本や雑誌、サブカル系の本がたくさんある図書館なら1日中いられるし、なんなら住んでもいい!という妄想を抱いたことはないだろうか?最近のマンガを読むなら漫画喫茶などの選択肢もあるが、もう入手できない過去の作品や同人誌が読みたいとなると、話は別だ。
でも、圧倒的なマンガ関係資料の所蔵数を誇る明治大学〈現代マンガ図書館〉と〈米沢嘉博記念図書館〉なら、レアでニッチな資料に触れることができる。そしてこの施設は、マンガ文化や歴史を後世に伝える上で、非常に重要な役割を担っている。
早速、予約不要で利用できる1階の展示室に足を踏み入れてみる。秋葉原や中野などで見かけるレンタルショーケースが並び、その一つひとつのケースに、『週刊少年ジャンプ』や『ビッグコミック』などのかなり古いバックナンバーや、昭和30年代の貸本などが並べられており、まるでタイムカプセルのよう。ショーケースの奥では年3回展示が変わる企画展が行われている(企画展は6月6日まで「樹村みのり展 ―その優しさ、芯の強さ―」を開催)。
この建物は、明治大学〈現代マンガ図書館〉と〈米沢嘉博記念図書館〉という2つの施設が2021年に窓口サービスを一体化させた場所だ。明治大学〈現代マンガ図書館〉(蔵書数約27万点)は、前身は貸本業をしていた内記稔夫さんが個人で運営していた〈現代マンガ図書館〉。内記さんは存命中に貸本マンガ、マンガ雑誌、単行本などを収集しており、これらは2009年に明治大学に寄贈された。
一方の〈米沢嘉博記念図書館〉(蔵書数約14万点)だが、米沢嘉博さんとは、明治大学に在学した漫画評論家、世界最大の同人誌即売会・コミックマーケットの創立メンバーのこと。2006年に病没し、明治大学は遺族から、米沢さんが個人的に収集していたマンガ雑誌、単行本、マンガ情報誌、同人誌、風俗系雑誌、アニメ誌などを譲り受けた。
建物の2階は約4000冊のマンガ雑誌や単行本を自由に手に取れる閲覧室となっている(明治大学生と教職員以外は有料の会員登録が必要)。閉架資料でも、同館サイトの蔵書検索で資料があれば、事前に取り寄せることもできる。
「ふらりと来館されて閲覧室のマンガを読まれる方、熱心なファンで、単行本未収録でマンガ雑誌にのみ掲載されたものを探しに来られる方、研究者の方などがよくいらっしゃいます。商用利用につながる目的の方も多く、出版社の方が自社にも残っていないバックナンバーを探しに来られることも」( 〈米沢嘉博記念図書館〉スタッフ・三崎絵美さん)
マンガ文化は世界中に広がり、文化や産業にも大きな影響を持つようになった。その歴史や広がりを明らかにしていくためには資料の継続的な収集が欠かせないが、公的機関ではあまりなされていないのが現状だという。黎明期から現在まで刊行されたマンガ雑誌や単行本は数え切れないほどの数。後世のマンガ研究者が原本に当たろうとした場合、困難が予想される。
「単行本や雑誌などのアナログ資料はまだ収集、保存できますが、最近は、マンガアプリや電子版のみの書籍も多いですよね。例えば内容に修正があったとして、紙の資料なら修正前のものを確認することができます。でも、マンガアプリや電子書籍などでは更新されてしまえば、それ以前のものに当たることはできません。ですが、未来のマンガ研究者にとっては、“どんな修正が入ったか”ということこそ知りたい情報のはずなんです。
また、人気作品以外についても、広い裾野があってこそのマンガ文化であり、できるだけたくさんのものを収集しておくことに意味があると考えます。容易なことではありませんが、他の図書館や出版社などと横の連携も取りつつ、続けていく必要があると思っています」(三崎さん)