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真夏の夜にタンゴ・エレクトロも悪くない。『La Revancha Del Tango』ゴタン・プロジェクト。バラカンが選ぶ夏のレコード Vol.3

ピーター・バラカンが選ぶ32枚のレコードストーリー。「ピーター・バラカンがオーナーのリスニングバー〈cheers pb〉で夏にかけるレコードの話を聞きました」も読む

illustration: TAIZO / text: Kaz Yuzawa

『La Revancha Del Tango』Gotan Project(2001年)

真夏の夜に
タンゴ・エレクトロも悪くない。

2001年にゴタン・プロジェクトのこのアルバムが発売されると、ヨーロッパ中のクラブの話題をさらったんだそうです。常に新しいダンス音楽を探している彼らは、男女ペアで踊るタンゴの魅力的な現代版を見つけて飛びついたのでしょう。

でも僕はその手の音楽には興味がなくて、例えばクラブ好きの若者たちにとっては聖地のようなイビサの音楽シーンに関する知識もありません。この『La Revancha Del Tango』もエレクトロニカという紹介だったので、最初のうちは聴いていませんでした。

でもあるとき、僕が最も影響を受けたBBCのラジオDJ、チャーリー・ギレットがこのアルバムをかけていることを、番組サイトに掲載されたプレイリストで知って、これはもしかすると僕も聴ける音楽かもしれないと、好奇心が湧いてきたんです。それで遅ればせながら聴いてみたら「コレはすごいっ!」と驚かされました。その意味では、食わず嫌いもたまには乗り越えないとダメだ、という教訓となったアルバムでもあります。

その後、ゴタン・プロジェクトの仕掛け人であるパリのレコード・プロデューサーでDJのフィリープ・コエン・ソラールに話を聞く機会があったんですが、その話が面白くて。彼がタンゴという音楽に興味を持ったのは、タンゴのルーツがアフリカにあると知ったからだそうなんです。

そしてそのことを感じさせるようなアルバムを作ろうと考えて、試行錯誤を繰り返した後に辿り着いたのが、ダブだったと。そしてタンゴ+エレクトロニカ+ダブという組み合わせを試した途端、それまで目の前を覆っていた霧が一気に晴れて、明確なイメージを結んだのだそうです。

僕はタンゴという音楽はアルゼンチンの白人文化だと思っていたので、ルーツがアフリカにあるという話は興味深かったし、改めて聴いて、ダブが接着剤にも潤滑油にもなってこのスタイリッシュな傑作が生まれたんだと納得しました。

このアルバムは“夏”を直接連想させはしないけれど、ずっと踊っていられる曲調で、その感じが夏の夜に響くタンゴのイメージを喚起します。

Gotan Project

CD-3:「Chunga's Revenge」

フランク・ザパの手になる原曲が、どのように生まれ変わるかを楽しんでもらえれば。僕は最初に聴いたときには、ザパの曲だとは気づかなかったくらい。タイトルに見覚えがあって聴き直したら、おぉ、そうかって納得しました。官能的な陰翳を感じさせるタンゴの名曲に仕上がっていますよ。