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「監督、愛のおなやみは映画で解決しますか?」今泉力哉、前田弘二、大九明子の3人に聞いてみました

熱愛、失恋、片思い、そしてまだ名もなき好きにまつわる感情まで……。様々な愛の形をスクリーンに描き出してきた映画監督は、その道の名手でもあるはず。愛を描いた名作で知られる3人の監督に「愛のおなやみは映画で解決できるのか?」聞いてみました。

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illustration: sigokun / text&edit: Asuka Ochi

映画監督が答える、 愛のおなやみ相談室。

今泉力哉

今泉力哉

解決するというより、思いがけず救われるものだと思っています

自分の映画も他人の映画も、何かの悩みがあってそれを観るということはあまりないですね。たまたま同じような境遇を描いた映画があれば、参考にはなるのかもしれませんが。自分の場合は、救われるために観るというより、偶然に出会うものでしかない気がしています。
学生の時、パチンコで当時の自分にとっては大金の3万円くらいをスって、財布に残っていた2,000円で映画館に入り、トッド・ソロンズ監督の『ハピネス』を観たことがありました。そうしたらタイトルに反して、すごく不幸な人しか出てこなくて、3万スった自分の方がよっぽどマシと思って救われた。
誰かが映画を観てどうなるかは本当に人それぞれで、そんなふうに想像していないところで救われたり、その逆もあったりするし、映画における救いというのはきっとそんなふうに勝手に行われることなんですよね。映画『愛がなんだ』も、うまくいかない恋愛のただ中にいる人たちから、観て救われたと言ってもらえましたが、そうなることをそこまで意識して撮ったわけではありませんでした。映画のラストも、主人公が改心して、うまくいかないことを断ち切って進もうというのではなく、良くないところをズルズルと引きずったまま終わっていく。主人公に成長がなかったことで、ある種、観る人も良くないところを肯定されたというのが、映画が広まったきっかけにもなったんですよね。成長が描かれること、頑張ろうという勇気になる人もいるけれど、実際の人生は、創作物のようにはならない。
自分は一般的な恋愛の形からもこぼれた、うまくいかない日常すら愛せるような作品で届けたいと思っています。

今泉力哉が愛に悩んだ時に観る映画

ジョゼと虎と魚たち
『ジョゼと虎と魚たち』(監督:犬童一心/'03/日)
「作品では、障害のある車椅子の女性と大学生の恋愛はハッピーエンドで描かれていない。ただ、お互いにいい人ではない障害者の恋愛ものを観た初めての経験で、とんでもなく感動しました」。

前田弘二

前田弘二

それはわかりませんが、僕自身は映画から活力を得ています

悩みを解決しようと映画を観ることはありませんが、僕にとっては映画を観ることによって、日々の活力をもらっています。現実を生きていると、嫌なことがあったり、面倒な人間関係に悩んだり、つまらない毎日だと感じたりすることがあります。いったん、そんな辛い現実を忘れて、ホラーでもコメディでもアクションでもサスペンスでもラブストーリーでも、ジャンル問わず、その映画の世界を味わうことで、頭がスッキリして、再び複雑なこの現実社会を乗り越えられる気がしてくる。
そういう意味で、映画は逃避であり、活力なんじゃないかなと思っています。映画をどう楽しもうが、どう感じようが、どう解釈しようが観客の自由の空間なので、日常のガス抜きでもありますね。だから映画を作る時には、見せ物であるという意識を持つことが僕の中では重要です。映画に自分の実体験や周囲の人から聞いたエピソードを反映することはよくありますね。自分と他者の体験のミックスだったりもします。たとえ、実体験を反映したつもりがなくても、撮影していると、過去の実体験とリンクして、不思議な気持ちになることもあります。映画を作るにあたって、観客からの共感を意識することはあまりないです。
ただ、自分が日々感じることはみんなも感じてるんじゃないか。人を突き詰めると、どんな人も同じところがいっぱいあるんじゃないかという思いはあります。
映画『まともじゃないのは君も一緒』や『こいびとのみつけかた』などは、世の中に馴染めない、常識外れの自由な登場人物を通して、世の中に対して自分が日々感じていることや思いをかなり反映しています。

前田弘二愛に悩んだ時に観る映画

『ピアノ・レッスン』
『ユー・キャン・カウント・オン・ミー』(監督:ケネス・ロナーガン/'00/米)
「描かれているのは両親を自動車事故で亡くした姉弟の話。人はみんな未完成で、誰も正解を持っていないんだという監督のメッセージが伝わってきて、観るたびにフッと心が軽くなります」。

大九明子

大九明子

悩みには関係なく、感じたありのままを映すものですね

愛に悩んで映画を観ようということは自分にはないですね。ただ、今日はしんどいから映画館に行くか、というふうに映画がもう少し頑張ろうというモチベーションになることはあります。悩んだ時に、というより、好きでたくさん観ていて、映画が日常になってしまっているんですよね。
過去に自分が恋愛モードの時には、そういった種類の映画が刺さるということもあったと思いますが、明確に実際の恋愛と映画がリンクしたりすることは少ないですよね。それに、自分が愛の映画を撮る時にも、人の悩みを解決しようというより、純粋に自分がどう感じるかということだけを見つめて、自分が嫌だな、好きだなというものを、シナリオに書いています。
2023年、NHKのドラマで『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』を撮った時は、自分の経験と重ねて愛について、すごく考える機会がありましたね。もし、家族の中で時が移ろっていって誰かが死んでしまっても、そこで家族というものは終わってしまうのではなく、漂い続けている。死んだはずの父親が家の中に普通に存在していたり、最後、その父親の視点も入れてドラマにしたりしましたが、そこには自分がそういうふうな家族の愛を信じたかったという思いも表しています。
何にしても、自分が好きとか嫌いとかいう感情のもとでしか表現したり、構築したりはできない。それが恋愛映画でも、または家族の映画であっても、自分の気持ちだけと向き合って考えて作ったものに、時に共感してもらえたりするんですよね。暗い恋愛中にも気持ちを温かくしたりするのが、映画にできることなのかなと思います。

大九明子愛に悩んだ時に観る映画

『ユー・キャン・カウント・オン・ミー』
『ピアノ・レッスン』(監督:ジェーン・カンピオン/'93/豪)
「ピアノを通じて結ばれていく、一つの愛の形。切なくて美しくて、温かい気持ちになります。ほかにリチャード・リンクレイター監督の『ビフォア』トリロジーもオススメ」。