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誰かを思う気持ちは、ときに自己中心的な行動に変化する。「愛ってエゴ」な映画20選

激しい愛は時にエゴとエゴのぶつかり合いを起こす。誰かを思う強い気持ちは、その強さゆえに自己中心的な行動に変化することも。エゴイスティックな登場人物たちの振る舞いは、思いやりだけでは生まれないシビアなドラマを映画にもたらすのだ。

illustration: Yoshimi Hatori / text: Fumi Suzuki

『緋色の街/スカーレット・ストリート』

恋愛

誰かを愛するための虚栄心とその末路にある地獄

出納係のクリスは、自らを女優と偽るキティに出会い、自分は金持ちの画家なのだと嘘をつく。冒頭からしてエゴで張り合う人々。しかしこうして出会ったが最後、彼らの運命は急転直下に堕(お)ちていく。終盤、闇に響く死者の呼び声は、地獄の底から響いているかのよう。

『美女と野獣』

恋愛

美醜の果ての愛とエゴの臨界

美女・ベルを我が物にしたいという野獣の利己心と、病に伏せる父を救いたいというベルの思いが、支配と服従の関係を複雑に入り乱れさせながら、幻惑的なモノクロームの中で進行する。野獣の城の古びた鏡が、エゴとも愛ともつかない人々の心のあわいを映す。

『風と共に散る』

恋愛/友情

現代人のエゴと愛を描くメロドラマの始祖

石油会社の一族に渦巻くエゴと愛に満ちたメロドラマの傑作。風に吹かれた木の葉が邸宅に舞い込むカットをはじめ、凝りに凝った撮影、照明、美術、すべての要素が映画そのもの。ロック・ハドソンとローレン・バコールの陰のあるスター性にも目が離せない。

『めまい』

恋愛

女というめまいにとらわれた、男のまなざしの世界

曲がりくねったサンフランシスコの街を蛇行しながら、ある女を追ううちスコティは迷宮に入っていく。彼は巻かれた彼女のブロンドや、彼女の一族の秘密などにとらわれ、彼女自身の実態などからははるかに離れていく。直截に描かれ切った男性のまなざしのエゴ。

『秋津温泉』

恋愛

濁流のような2つの感情の交差を描く傑作

死のうとすること、生き直そうとすること、そのあいだを揺れ動き続けること。その揺れ動く体を、時には互いに預け、時には拒絶する。それがエゴであろうとも、そうとしかできない。終戦を挟み温泉地で繰り広げられる、傷つき切った2つの魂によるメロドラマ。

『その場所に女ありて』

恋愛/友情/人情

愛と職業意識の狭間で揺れ動く現代のエゴ

広告代理店同士の熾烈な争い。そこでは恋愛すらも、互いの利益のための駆け引きの道具。他者への愛と職業的エゴがせめぎ合う不安。現在にも増して圧倒的な男性社会を生き抜く司葉子たちBG(ビジネス・ガール)が横断歩道を黙々と渡っていくラストカットに痺(しび)れる。

『陸軍中野学校』

友情/恋愛

スパイという主題から導き出される、人間の愛

日本軍のスパイとして養成される青年たちは、個人のエゴを消され、国家の利益のための戦争機械とされていく。しかし終盤、主人公・三好にわずかに残った、かつての恋人の行方を知りたいという一抹のエゴが逆に愛の破局と人間性の喪失を招く、恐るべき傑作。

『ベニスに死す』

恋愛

なぜ愛を秘めてアシェンバッハは死んだのか?

俗世に背を向け、少年への愛着と、自己の求める芸術性の中に閉じこもっていく男のエゴそのものが目いっぱいの感傷とともに描かれる。少年タジオに他者として向き合うことができず、彼の幻を抱いて死にゆくアシェンバッハ。彼を殺したのは本当に疫病だったのか?

『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』

恋愛

ファスビンダーが挑む、女たちの支配と服従

愛の支配性、愛への反発と服従を生涯追求したファスビンダーによる女たちの愛の残酷劇。絢爛なミヒャエル・バルハウスの撮影、派手な衣装と美術ながら全編が一部屋で演じられることも、ハリウッド製メロドラマがミニチュア化されたようなキッチュな魅力に富んでいる。

『薔薇の王国』

恋愛

クィアなイメージの連鎖と、愛と支配欲の境界

ある青年に恋をし、彼を監禁することでしか愛せない男と、それを暗がりから覗く母、マグダレーナ・モンテツマ。夜の浜辺に打ち寄せる波、4ビートがリズムを刻む調子外れのオペラ、噴き出す鮮血。そんなクィアな魅力に溢れたイメージの羅列に見る、支配としての愛。

『異人たちとの夏』

恋愛/親子愛

大林宣彦、山田太一、市川森一による愛情恐怖譚

独り身の脚本家・原田の元を同じマンションに住む桂が訪れる。原田は同じく孤独を抱えた彼女を拒絶してしまうが、それを発端に異界への通路が開かれ、今は亡き父母の愛情と出会い直す。孤独に逃げるエゴの浅はかさを、他者の死を通して突きつけられるラストが痛烈。

『愛情萬歳』

友情

押しつけがましい涙さえ愛情で包む蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)の世界

都会のアパートの一室を訪れながらもすれ違う3人の都会人の孤独で突拍子もない行動が描かれるが、彼ら彼女らが入れ違うようにペアになって、屋台で買い物をし、2人でたばこを吸う一瞬一瞬が愛に満ちている。ラストのヤン・クイメイの大号泣は愛情萬歳だ。

『御法度 GOHATTO』

恋愛

支配欲と性の力学を描く、反権力の巨匠の遺作

新撰組に加納惣三郎(松田龍平)という少年が入隊する。血生臭い権力闘争に満ちた幕末・京都で、惣三郎を我が物にして彼を支配しようとあがく男たちのエゴ。浅野忠信が松田に言う「君は人を斬ったことがあるか?人と契ったことがあるか?」という言葉がなまめかしい。

『囚われの女』

恋愛

追うほど逃げるイメージとしての「女」

タイトルは『囚われの女』だが、むしろ女の跡をつけ、すりガラス越しに彼女の裸体を眺める主人公の男こそが、「女」というイメージを抱く自身のエゴにとらわれているかのようだ。終盤、夜の街娼たちを車から眺め、薄暗い海を小舟でさまよう彼の姿が心もとない。

『4:44 地球最期の日』

恋愛

アパートの一室で描かれる人類のエゴと愛の結末

人類のエゴイスティックな環境破壊の末、オゾン層が破壊され、不可避となった地球の滅亡。その最期の一日に繰り広げられるのは、年の差アーティストカップルのエゴ丸出しの痴話喧嘩。でもそのちっぽけさが、逆に人間が生きていることの切実さをあぶり出す。

『her/世界でひとつの彼女』

恋愛

孤独な男のAIとの恋愛

妻と離れて暮らし、AIのサマンサとの恋愛に没頭するセオドア。彼がスマホの中のサマンサとビーチでデートする姿は、はたから見れば滑稽だが、現実での妻との対話の痛々しさと対照的で妙にうっとりする。でもそれすらも独りよがりな恋だと気づくセオドアが切ない。

『ゴーン・ガール』

夫婦愛

最初から破綻していた夫婦生活が破綻するまで

「妻の頭蓋骨を開いたら、そこに何があるだろう?何を考えてる?」。ベン・アフレックのそんな言葉で幕を開ける本作。夫の妻に対するエゴが反転し、妻の行動はおかしくなっていく。彼女を追いやったものは何か?タイトルは『ゴーン・ボーイ』でもいい。

『タンジェリン』

人情

愛の果てたその先、エゴのるつぼに生きる人々

誰もがエゴにまみれたストリートの群像。中でも、女系家族の中で男の稼ぎ手としての重圧に押し潰されそうになりながら、街ではトランス女性の娼婦たちに入れ上げ、しかし金はむしり取られるアルメニア移民のタクシー運転手が目を引く。S・ベイカーの快作。

『Swallow/スワロウ』

家族愛

男たちのエゴに縛られた女が生き直すまで

裕福な家庭の主婦が夫に従順に過ごすうち、ビー玉、画鋲、電池などを呑み込むようになってしまう。彼女を異食症へ追いやったのは自身の出生にまつわる男性からの加害のトラウマだった。よりを戻そうとする夫の愛のささやきが罵(ののし)りに変わっていく電話での会話が悲しい。

『エル プラネタ』

親子愛

色彩のない消費社会を生きる、見栄っ張りな母と娘

インスタ映えを求めてセレブを気取る、実際には極貧の母と娘が、はちゃめちゃな勢いで買い物に邁進(まいしん)する姿をモノクロームの落ち着いた映像が切り取っていく。キャストは、本作監督でアーティストのアマリア・ウルマンと彼女の実母。嘘ばかりの母と娘の友愛も切実。